

はじめに:「外出困難」が遺言作成の壁だった時代は終わった
「親が高齢で、公証役場まで連れて行くのが大変…」
「入院中だが、意識ははっきりしている。今のうちに遺言書を残したい」
相続遺言の専門家として、こうしたご相談を数え切れないほど受けてきました。
公正証書遺言は、法的信頼性が高く、後のトラブルを防ぐ最善の方法です。しかし、これまでは「本人が公証役場に出向く」ことが原則で、体力的に難しい高齢者にとっては大きなハードルでした。
そんな中、2025年10月から「電子公正証書のリモート方式」が正式にスタート。これにより、自宅にいながらオンラインで公正証書遺言を作成できるようになりました。
本記事では、80代の親を持つ40代の皆さんに向けて、この新制度の詳細とメリット、注意点を徹底解説します。
そもそも「公正証書遺言」とは?なぜ推奨されるのか
公正証書遺言の基本
公正証書遺言とは、公証人が遺言者の口述をもとに作成し、原本を公証役場で保管する遺言書です(民法969条)。
自筆証書遺言と異なり、以下の特徴があります。
公正証書遺言のメリット
・公証人が法的要件をチェックするため、無効になるリスクが極めて低い
・原本が公証役場に半永久的に保管され、紛失・改ざんの心配がない
・相続発生時の検認手続きが不要で、すぐに執行できる
・字が書けない方、視力が弱い方でも作成可能
なぜ専門家は公正証書遺言を勧めるのか
実務上、自筆証書遺言にはこんなリスクがあります。
・形式不備で無効になる(日付なし、押印なしなど)
・遺言能力が争われる(「認知症だったのでは?」)
・遺言書が見つからない、隠される、破棄される
・相続発生後、家庭裁判所での検認手続きが必要(時間と手間)
一方、公正証書遺言はこれらのリスクをほぼゼロにできます。
だからこそ、専門家は「確実に想いを残したいなら、公正証書遺言を」と強く推奨するのです。
従来の公正証書遺言作成:「公証役場に出向く」がネックだった
従来の作成フロー
これまで公正証書遺言を作るには、以下の流れが必要でした。
1. 事前に公証人と打ち合わせ(電話・メール)
2. 遺言者本人・証人2名・公証人が公証役場に集まる
3. 遺言者が口頭で内容を述べる
4. 公証人が読み聞かせ、全員が署名・押印
5. 原本を公証役場で保管、正本・謄本を遺言者に交付
「出向く」ことの困難さ
しかし、80代の高齢者にとって、公証役場への移動は想像以上に大変です。
実際の現場での課題
・車椅子での移動が困難
・長時間の外出に耐えられない
・入院中・施設入所中で外出許可が下りない
・感染症リスクを避けたい
こうしたケースでは、公証人に出張してもらう「出張サービス」もありますが、出張特別加算で数万円の追加費用がかかるため、経済的負担も大きくなります。
「電子公正証書のリモート方式」とは?制度の全貌
2025年10月スタートの画期的制度
「電子公正証書のリモート方式」とは、自宅や施設にいながら、オンラインで公証人とつながり、公正証書遺言を作成できる制度です。
リモート方式の作成フロー
1. 事前に公証人と打ち合わせ(オンライン or 電話)
2. 遺言者は自宅、証人は各自の場所からオンライン参加
3. 公証人がオンラインで遺言者の意思を確認
4. 電子署名・電子押印により成立
5. 電子データで原本保管、紙の正本・謄本も交付可能
どんな人に向いている?
・足腰が弱く、外出が困難な高齢者
・入院中・施設入所中の方
・遠方に住んでいて公証役場が遠い方
・感染症対策で外出を控えたい方
リモート方式のメリット:従来方式との比較
項目 | 従来の公正証書遺言 | リモート方式
移動の必要性 | 公証役場に出向く必要あり | 自宅から参加可能
身体的負担 | 大きい(移動・待ち時間) | 小さい(自宅で完結)
費用 | 基本料金のみ | 基本料金のみ(出張費不要)
法的効力 | 確実 | 確実(同等)
原本保管 | 公証役場 | 公証役場(電子)
リモート方式の最大のメリット
「体力的に難しくても、諦めなくていい」
これが最大のメリットです。
従来なら「もう体力的に無理だから…」と遺言書作成を断念していた方でも、リモート方式なら自宅のソファに座ったまま、確実に遺言書を残すことができます。
リモート方式の注意点とデメリット
本人確認が厳格化
オンラインでの手続きのため、本人確認がより厳格になります。
必要な準備
・マイナンバーカード(顔写真付き)
・運転免許証など公的身分証明書
・カメラ付きデバイス(PC、タブレット、スマホ)
通信環境の整備が必要
安定したインターネット環境が必須です。
推奨環境
・光回線など安定した通信
・カメラ・マイク付きデバイス
・静かで、他人に聞かれない環境
証人の確保
公正証書遺言には証人2名が必要です。
ただし、以下の人は証人になれません。
・未成年者
・推定相続人(配偶者・子など)
・受遺者(遺言で財産をもらう人)
・推定相続人・受遺者の配偶者・直系血族
証人がいない場合は?
司法書士や行政書士が証人を務めることも可能です。
リモート方式の手続きの流れ(実践編)
ステップ1:専門家(司法書士)に相談
まずは、お近くの相続遺言専門の司法書士にご相談ください。
相談時に確認すること
・遺言で残したい内容
・財産の全体像
・相続人の構成
・遺言能力の有無
ステップ2:公証人との事前打ち合わせ
司法書士が窓口となり、公証人と遺言内容の調整を行います。
準備する書類
・遺言者の印鑑証明書
・戸籍謄本(相続人確認用)
・不動産の登記簿謄本
・預貯金通帳のコピー
ステップ3:リモート作成日の調整
遺言者の体調や都合を考慮し、日程を調整します。
ステップ4:リモートで遺言作成
当日は、自宅から公証人・証人とオンラインでつながり、遺言書を作成します。
所要時間:30分から1時間程度
ステップ5:正本・謄本の受け取り
後日、公証役場から正本・謄本が郵送または交付されます。
費用はどれくらい?リモート方式と従来方式の比較
公正証書遺言の基本手数料
公証人手数料は、遺言で渡す財産の額によって決まります。
財産額 | 手数料
100万円以下 | 5,000円
200万円以下 | 7,000円
500万円以下 | 11,000円
1,000万円以下 | 17,000円
3,000万円以下 | 23,000円
5,000万円以下 | 29,000円
1億円以下 | 43,000円
(相続人ごとに計算し、合算します)
リモート方式の追加費用は?
基本的に追加費用なし
従来の出張サービスでは数万円の追加費用がかかりましたが、リモート方式は通常の手数料のみで対応可能です。
80代の親を持つ40代のあなたが今すぐやるべきこと
今すぐアクション1:親の意思を確認する
「遺言書を残したいか?」
「どんな想いを次世代に伝えたいか?」
まずは、親の本音を聞いてみましょう。
今すぐアクション2:専門家に相談する
遺言書は「書けばいい」ものではありません。法的に有効で、後のトラブルを防ぐためには、専門家のサポートが不可欠です。
司法書士に相談するメリット
・遺言内容の法的チェック
・公証人との調整代行
・証人の手配
・相続発生後の手続きサポート
今すぐアクション3:通信環境を整える
リモート方式を利用するには、安定したネット環境が必要です。
今から準備できること
・Wi-Fi環境の確認
・タブレットやPCの準備
・オンライン通話の練習(ZoomやLINEビデオ通話など)
よくある質問
Q1. リモート方式でも法的効力は同じ?
A. はい、従来の公正証書遺言と全く同じ法的効力があります。
Q2. スマホでもできる?
A. 可能ですが、画面が大きいタ