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遺言書のお話

2026年04月28日

暗号資産・NFT・デジタル資産の相続対策|2026年、アメリカの最新事例から学ぶ日本での備え方

大阪の遺言書作成サポート司法書士ゆいごんのしげもり

はじめに

「先生、暗号資産って、遺言書に書けるんですか?」

最近、このような質問を受けることが増えてきました。

ビットコインやイーサリアムといった暗号資産だけでなく、NFT、収益化されたYouTubeチャンネル、オンラインビジネス、さらにはSNSアカウントまで、「目に見えない資産」が私たちの生活の中に急速に広がっています。

そして、それらは確実に「相続の対象」になりつつあります。

しかし、デジタル資産には大きな問題があります。それは、「物理的な証拠がない」ということです。

銀行の通帳、不動産の権利証、株券——これらは目に見える形で存在しますが、デジタル資産はパスワードや秘密鍵によって守られており、それがなければ家族は一円たりとも引き出すことができません。

実際、海外では「故人の暗号資産ウォレットに数億円相当のビットコインがあったが、秘密鍵がわからず永遠にロックされたまま」という事例が複数報告されています。

今回は、アメリカ・テキサス州の遺言・信託専門法律事務所が2026年に公開した記事「Crypto, NFTs, and Digital Assets in Estate Planning: What Families Must Know in 2026」をもとに、デジタル資産の相続にまつわる課題と、日本でも応用できる実務的な対策について解説します。

デジタル資産とは何か?

まず、デジタル資産とは具体的に何を指すのでしょうか。

記事では、以下のようなものが挙げられています。

・暗号資産(ビットコイン、イーサリアムなど) ・NFT(Non-Fungible Token) ・トークン化された投資商品 ・オンラインビジネス(ECサイト、サブスクリプションサービスなど) ・収益化されたSNSアカウント(YouTube、Instagram、TikTokなど) ・ドメイン名 ・デジタルストレージ内の知的財産(写真、動画、音楽、電子書籍など)

これらはすべて、従来の「物理的な財産」とは性質が異なります。

特に問題となるのは、「アクセス手段が限定的である」という点です。

デジタル資産の相続における最大の課題

デジタル資産の相続には、いくつかの大きな課題があります。

アクセス情報の喪失リスク
暗号資産の秘密鍵やパスワードは、本人以外知らないことが一般的です。もし本人が亡くなった際、家族がその情報にアクセスできなければ、資産は事実上「消失」します。

資産の存在自体が知られていない
デジタル資産は通帳や権利証のように「目に見える」ものではありません。そのため、相続人がその存在を知らないまま見過ごされてしまうケースも少なくありません。

プラットフォーム規約による制限
多くのオンラインサービスは、利用規約で「アカウントの譲渡禁止」を定めています。そのため、たとえ遺言書に記載があったとしても、プラットフォーム側が相続を認めない可能性があります。

法整備の遅れ
日本では、デジタル資産の相続に関する法律や判例がまだ十分に整備されていません。そのため、実務上のグレーゾーンが多く残されています。

アメリカで推奨されているデジタル資産相続対策

記事では、以下のような具体的な対策が紹介されています。

パスワード管理ツールの活用
暗号化されたパスワード管理ツール(例:1Password、LastPass、Bitwardenなど)を使い、アクセス情報を一元管理します。そして、その「マスターパスワード」だけを信頼できる人に託す方法です。

ただし、セキュリティと利便性のバランスが重要です。情報を誰にでも渡してしまうと悪用のリスクがありますし、誰にも渡さなければ家族が困ります。

デジタル資産の受託者(Digital Fiduciary)の指定
遺言書や信託契約書の中で、「デジタル資産を管理する権限を持つ人」を明確に指定します。この人は、パスワードにアクセスし、資産を相続人に引き渡す役割を担います。

日本の民法では「遺言執行者」という制度がありますが、デジタル資産に特化した権限を明記することで、より確実な承継が可能になります。

遺言書・信託契約書への明記
デジタル資産についても、遺言書や信託契約書に具体的に記載することが重要です。

たとえば、

「私は、以下の暗号資産取引所にアカウントを保有しており、その管理を遺言執行者○○に委ねる」 「私の運営するYouTubeチャンネル『○○』の収益は、妻△△に帰属させる」

といった形で、できるだけ具体的に記載します。

LLC(合同会社)と生前信託の併用
特にオンラインビジネスを運営している場合、そのビジネスを法人化(日本では合同会社や株式会社)し、その持分を信託契約で管理する方法が有効です。

この方法を使えば、事業そのものは法人として継続し、持分だけが相続されるため、事業の中断を防ぐことができます。

また、法人には「責任の限定」という効果もあり、個人資産と事業資産を分離することで、リスクを軽減できます。

日本での応用可能性と注意点

アメリカの事例は、日本の相続実務にも多くの示唆を与えてくれます。

ただし、日本には日本独自の法制度があるため、そのまま適用できるわけではありません。

日本でデジタル資産の相続対策を行う際の注意点

遺言書の記載方法
日本の民法では、遺言書に「財産の特定」が求められます。そのため、「暗号資産」とだけ書くのではなく、取引所名、ウォレットの種類、アカウント情報などを可能な限り具体的に記載する必要があります。

ただし、秘密鍵やパスワードそのものを遺言書に書くことは推奨されません。遺言書は開封時に第三者の目に触れる可能性があるためです。

信託の活用
日本でも「民事信託(家族信託)」を活用することで、生前から財産管理を第三者に委ねることができます。

たとえば、親が認知症になる前に、信頼できる子どもを受託者として信託契約を結んでおけば、親の判断能力が低下した後も、デジタル資産を含む財産を適切に管理できます。

遺言執行者の権限強化
遺言執行者に対して、「デジタル資産へのアクセス権限」を明示的に付与しておくことが重要です。

また、遺言執行者には、ITリテラシーの高い人を選ぶことが望ましいでしょう。

プラットフォーム規約の確認
GoogleやApple、各種暗号資産取引所には、それぞれ「追悼アカウント」や「相続手続き」に関する規定があります。

事前にこれらの規約を確認し、可能であれば生前に設定を済ませておくことが大切です。

実際にあった相続トラブル事例(海外)

ここで、海外で実際に起きたデジタル資産相続のトラブル事例をいくつか紹介します。

事例1:暗号資産の秘密鍵紛失

カナダの男性が急死し、彼が経営していた暗号資産取引所に預けられていた顧客の資産約190億円が引き出せなくなりました。秘密鍵を知っていたのは彼だけで、遺族も会社もアクセスできなかったのです。

事例2:YouTubeチャンネルの相続拒否

アメリカのYouTuberが亡くなり、家族がチャンネルの管理権を引き継ごうとしましたが、YouTubeの利用規約により「アカウントは譲渡不可」とされ、収益が止まりました。

事例3:NFTの所有権争い

あるアーティストが亡くなった後、彼が制作したNFT作品の所有権をめぐり、家族と共同制作者の間で訴訟に発展しました。契約書が曖昧だったため、裁判は長期化しました。

これらの事例は、デジタル資産の相続が「新しい法的課題」であることを示しています。

今、私たちがすべきこと

では、デジタル資産を持つ私たちは、今何をすべきでしょうか。

以下、実務的なチェックリストを示します。

デジタル資産相続チェックリスト

□ 自分が保有しているデジタル資産をリスト化する □ アクセス情報(ID、パスワード、秘密鍵)を安全な方法で管理する □ 信頼できる家族や専門家に、デジタル資産の存在を伝える □ 遺言書にデジタル資産を明記する □ 遺言執行者に、デジタル資産管理の権限を付与する □ 必要に応じて、信託や法人化を検討する □ 各種プラットフォームの「追悼アカウント」設定を行う □ 定期的に情報を更新する

特に最後の「定期的な更新」は非常に重要です。デジタル資産は、従来の不動産や預金と違い、日々変化します。新しいアカウントを作ったり、サービスを解約したり、パスワードを変更したりするたびに、記録を更新しなければなりません。

終わりに

デジタル資産の相続は、もはや「一部の人だけの問題」ではありません。

スマートフォンを持ち、インターネットを使い、何らかのオンラインサービスを利用している私たちすべてに関わる問題です。

そして、80代の親を持つ40代の皆さんにとっては、二つの意味で重要なテーマです。

一つは、「親のデジタル資産をどう引き継ぐか」という視点。 もう一つは、「自分のデジタル資産を、どう子どもたちに残すか」という視点。

どちらの立場においても、今から準備を始めることが大切です。

もし、ご自身やご家族が、 ・暗号資産を保有している ・NFTを購入している ・YouTubeやブログで収益を得ている ・オンラインビジネスを運営している ・大量のデジタルデータ(写真、動画、文書など)を保有している

といった状況にあるなら、ぜひ一度、相続の専門家に相談してみてください。

デジタル時代の相続対策は、もう「特別なこと」ではなく、「当たり前の備え」です。

参考記事(英語): https://mytxwills.com/crypto-nfts-and-digital-assets-in-estate-planning-what-families-must-know-in-2026/


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