

親が80代を迎え、そろそろ相続について考え始める40代の方が増えています。特に「実家をどう分けるか」は、多くのご家族が直面する大きな課題です。この記事では、相続遺言専門の司法書士として、実家の相続で兄弟間のトラブルを防ぐための具体的な方法を、実例を交えながら詳しく解説します。
実家相続でよくあるトラブル事例
「弟が実家を相続したいと言って、100万円払うから納得してほしいと言われました。でも、何だか納得できなくて…」
これは実際にあったご相談の一例です。このケースでは、実家の評価額が約1000万円でしたが、弟さんが提示した代償金はわずか100万円。本来なら500万円程度が妥当なのに、400万円も少ない金額だったのです。
また、別のケースでは「年の離れた兄が『長男だから全部もらう』と主張して、遺産分割協議が進まない」というご相談もありました。さらに「母の遺産が預金300万円と自宅だけ。兄とどう分けるのが正解ですか?」という悩みも非常に多くいただきます。
これらのトラブルに共通するのは、「相続の基本的なルールを知らないまま話が進んでしまう」ことです。
相続の基本ルール|兄弟の相続分は原則平等
まず、知っておいていただきたい大前提があります。それは「兄弟姉妹の相続分は、法律上は原則として平等」ということです。
長男だから多くもらえる、長女だから少なくていい、ということは一切ありません。年齢や性別、同居の有無などに関係なく、子どもたちの相続分は等しく分けるのが民法の原則です。
例えば、遺産の総額が2000万円で、相続人が兄と弟の2人なら、それぞれ1000万円ずつが法定相続分となります。
遺言書があっても「遺留分」がある
では、遺言書に「すべての財産を長男に相続させる」と書いてあったらどうなるのでしょうか?
実は、遺言書があっても、他の相続人の権利が完全になくなるわけではありません。民法では「遺留分」という制度があり、一定の相続人には最低限の取り分が保障されています。
遺留分は、子どもや配偶者の場合、法定相続分の半分です。例えば、遺産が5000万円で相続人が子ども2人の場合、それぞれの法定相続分は2500万円ですから、遺留分は1250万円となります。
もし遺言によって「長男がすべて相続する」となっていても、次男は長男に対して1250万円を請求することができます。これを「遺留分侵害額請求」といいます。
つまり、遺言書を書けば何でも自由に決められるわけではなく、他の相続人の最低限の権利は法律で守られているのです。
代償金の適正額はどう決まる?
実家を兄弟の1人が相続し、他の兄弟に代償金を支払う方法を「代償分割」といいます。この方法は、相続財産のほとんどが不動産である場合によく使われます。
代償金の額は、実家の評価額をもとに決められます。例えば、実家の評価額が1000万円で相続人が2人なら、実家を取得する人はもう一方に500万円を支払うのが基本です。
ただし、問題は「実家の評価額」です。不動産の評価方法にはいくつかあり、どれを使うかで金額が大きく変わります。
1. 固定資産税評価額:市町村が決める評価額。実際の市場価格より低めになることが多い。
2. 路線価(相続税評価額):相続税を計算するための評価額。これも実勢価格より低めになる傾向。
3. 不動産業者の査定額:実際に売ったらいくらになるか、という時価に近い金額。
例えば、ある実家の場合、固定資産税評価額は800万円、路線価は1100万円、不動産業者の査定額は1500万円、ということもあります。
どの評価額を使うかによって、代償金も大きく変わります。だからこそ、相続人全員で納得できる評価額を決めることが重要なのです。
預金と不動産がある場合の分け方
「母の遺産が、預金300万円と自宅だけなんです。兄と2人でどう分けるのが正解ですか?」
このようなケースもよくあります。預金と不動産という「形の異なる財産」をどう分けるかは、非常に悩ましい問題です。
まずは、自宅の評価額を確認します。仮に自宅の評価額が1700万円だとすると、遺産総額は預金300万円+自宅1700万円=2000万円となります。
相続人が2人なら、それぞれの法定相続分は1000万円ずつです。
分け方としては、以下のような方法があります。
パターン1:代償分割
兄が自宅(1700万円)を取得し、弟に代償金700万円を支払う。弟は代償金700万円+預金300万円=1000万円を取得。
パターン2:換価分割
自宅を売却して現金化し、預金と合わせた総額を2人で分ける。
パターン3:共有
自宅を2人の共有名義にし、預金も半分ずつ分ける。ただし、この方法は将来的にトラブルのもとになるため、あまりおすすめしません。
どの方法を選ぶかは、それぞれの家族の事情によります。兄がそのまま住み続けたいなら代償分割、誰も住まないなら換価分割が現実的でしょう。
遺産分割協議の進め方
遺言書がない場合、相続人全員で「遺産分割協議」を行い、誰が何をどれだけ相続するかを話し合って決めます。
遺産分割協議の基本的な流れは以下の通りです。
1. 相続人の確定
まず、誰が相続人なのかを確定します。戸籍謄本を取り寄せて、法定相続人を漏れなく把握します。
2. 相続財産の調査
亡くなった方の自宅、銀行口座、証券口座、保険、借金などを調査し、すべての財産を洗い出します。
3. 財産の評価
不動産や株式など、評価が必要な財産の価値を確認します。
4. 生前贈与や寄与分の確認
亡くなる7年以内に生前贈与を受けた人がいないか、介護などで特別な貢献をした人がいないかを確認します。
5. 分割方法の協議
誰が何を取得するか、代償金を支払うか、売却するかなどを話し合います。
6. 遺産分割協議書の作成
合意した内容を書面にまとめ、相続人全員が署名・押印します。
遺産分割協議は、相続人全員の合意が必要です。1人でも参加していない場合、その協議は無効になります。
話し合いがまとまらない場合は?
どうしても話し合いがまとまらない場合は、以下の方法があります。
1. 専門家に相談する
司法書士や弁護士などの専門家に間に入ってもらい、客観的な立場から助言をもらう。
2. 家庭裁判所の調停を利用する
家庭裁判所に遺産分割調停を申し立て、調停委員を交えて話し合いを進める。
3. 審判に移行する
調停でも話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所の裁判官が遺産の分け方を決定する審判に移行します。
ただし、調停や審判は時間もコストもかかります。できれば、専門家の助言を受けながら、相続人同士の話し合いで解決するのが理想的です。
相続トラブルを防ぐための3つのポイント
1. 早めに家族で話し合う
親が元気なうちに、将来の相続について家族で話し合っておくことが最も重要です。「まだ早い」と思わず、80代になったら少しずつ準備を始めましょう。
2. 遺言書を作成する
親の意向を明確にするため、遺言書を作成しておくことをおすすめします。公正証書遺言なら、形式の不備で無効になる心配もありません。
3. 専門家に相談する
相続は複雑で、専門知識が必要です。早めに司法書士や税理士などの専門家に相談することで、トラブルを未然に防ぐことができます。
まとめ|円満な相続のために今できること
実家の相続は、お金の問題であると同時に、家族の関係性の問題でもあります。「長男だから」「次男だから」という感覚的な話ではなく、法律に基づいた公平な分け方を理解しておくことが大切です。
代償金の計算、遺留分の権利、遺産分割協議の進め方——これらの基本を知っておくだけで、トラブルを大きく減らすことができます。
80代の親を持つ40代の皆さん、今からできることを少しずつ始めてみませんか?家族みんなが納得できる相続を実現するために、専門家としてサポートさせていただきます。
何か気になることがあれば、お気軽にご相談ください。
参考記事:
https://news.yahoo.co.jp/articles/8277015c4dae08f83f9370d9c966313a6a0bbeae
https://news.yahoo.co.jp/articles/a122b884211a75784182cf5336d904c2b3f06d22
https://news.yahoo.co.jp/articles/595dd1fadfc9a5a758224d38ede5d90b8afba849