

はじめに
80代の親を持つ40代の皆さん、突然ですが「親が亡くなったら何から始めればいいのか」考えたことはありますか?
相続手続きと聞くと、遺産分割や相続税のことを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし実際には、その前に立ちはだかる大きな壁があります。それが「戸籍謄本の取得」です。
銀行口座の解約、不動産の名義変更、証券会社の手続き、自動車の相続登録…あらゆる相続手続きで必要になるのが、被相続人(亡くなった方)の「出生から死亡までの戸籍謄本」です。
この戸籍謄本の取得が、2024年(令和6年)3月の戸籍法改正によって劇的に簡単になったことをご存じでしょうか。
本記事では、相続遺言専門の司法書士の視点から、この法改正がなぜ画期的なのか、どう活用すればいいのかを、わかりやすく解説します。
なぜ相続手続きに戸籍謄本が必要なのか
相続手続きの第一歩は、「誰が相続人なのか」を証明することです。
銀行も法務局も、口頭で「私は長男です」と言っても信じてくれません。公的な証明書が必要になります。その証明書が「戸籍謄本」なのです。
しかも、ただの戸籍謄本ではありません。被相続人が「生まれてから亡くなるまで」の全ての戸籍が求められます。
なぜかというと、途中で認知した子どもがいるかもしれない、養子縁組をしているかもしれない、離婚・再婚をしているかもしれないからです。相続人の範囲を確定するために、人生の全ての記録を追いかける必要があるのです。
改正前の戸籍取得はどれだけ大変だったか
ここで、改正前の実態をお話しします。
例えば、あなたのお父様が次のような人生を歩んでいたとします。
・北海道で生まれた
・大学進学で東京に出て、結婚を機に本籍を東京に移した
・転勤で大阪に移り、本籍も大阪に変更した
・定年後、故郷の北海道に戻り、再び本籍を北海道に戻した
この場合、戸籍謄本は北海道・東京・大阪の3カ所に分散しています。
改正前は、それぞれの役所に個別に郵送で請求しなければなりませんでした。その手順は次の通りです。
1. 郵便局で定額小為替を購入(手数料を払うため)
2. 請求書を作成し、身分証明書のコピーを添付
3. 返信用封筒(切手を貼ったもの)を同封
4. 各役所に郵送
5. 数日〜2週間後に戸籍謄本が返送されてくる
6. 次の本籍地が判明したら、また同じ作業を繰り返す
これを3カ所、場合によっては4カ所、5カ所と繰り返すのです。
仕事を持ちながら、喪主としての対応もしながら、この作業を並行して行うのは、想像以上に大変です。
令和6年3月の戸籍法改正で何が変わったのか
そこで登場したのが、2024年(令和6年)3月1日に施行された戸籍法の改正です。
この改正により、「広域交付制度」がスタートしました。
広域交付とは、全国どこの市区町村役場でも、管轄外の戸籍謄本を取得できる制度です。つまり、あなたがお住まいの最寄りの役所で、全国バラバラの本籍地の戸籍謄本をまとめて取得できるようになったのです。
これまで何往復もかかっていた郵送請求が、たった一度の窓口訪問で完結します。
広域交付制度のメリット
この制度のメリットを整理しましょう。
時間の短縮
郵送のやり取りで数週間かかっていたものが、窓口で数時間〜1日程度で取得可能になります。
手間の削減
定額小為替の購入、請求書の作成、返信用封筒の準備といった煩雑な作業が不要になります。
費用の節約
郵送費用や定額小為替の発行手数料が不要になります。
心理的負担の軽減
「次はどこに請求すればいいのか」という不安から解放されます。
広域交付を利用する際の注意点
便利な制度ですが、いくつか注意点があります。
請求できる人が限定されている
請求できるのは、被相続人本人、配偶者、直系尊属(父母・祖父母など)、直系卑属(子・孫など)に限定されています。
例えば、亡くなったのがあなたの配偶者のお父様(義父)の場合、あなた自身は請求できません。配偶者本人が請求する必要があります。
窓口での本人請求のみ
郵送請求や代理人による請求はできません。必ず窓口に本人が出向く必要があります。
コンピュータ化されていない戸籍は対象外
一部の自治体では、まだ紙ベースで戸籍を管理している場合があります。そのような戸籍は広域交付の対象外となるため、従来通り個別に請求する必要があります。
通数が多い場合は時間がかかる
出生から死亡までの戸籍が10通を超えるような場合、交付までに数時間かかることもあります。時間にゆとりを持って役所に行きましょう。
相続手続き全体の流れと戸籍の位置づけ
戸籍取得は、相続手続きの「入口」です。全体の流れを把握しておきましょう。
1. 死亡届の提出(7日以内)
2. 戸籍謄本の取得 ← 今回の改正で簡単に!
3. 相続人の確定
4. 遺言書の有無の確認
5. 相続財産の調査
6. 遺産分割協議
7. 遺産分割協議書の作成
8. 各種名義変更手続き(不動産、銀行、証券など)
9. 相続税の申告(必要な場合、10カ月以内)
このように、戸籍取得は最初のステップです。ここでつまずくと、その後の全ての手続きが遅れてしまいます。
80代の親を持つ40代が今できること
この記事を読んでいる40代の皆さんに、今からできることをお伝えします。
親の本籍地を確認しておく
親が生きているうちに、現在の本籍地を聞いておきましょう。「マイナンバーカードや運転免許証に書いてある住所」と「本籍地」は違うことが多いので要注意です。
過去の転籍履歴を聞いておく
可能であれば、これまで何回本籍を移したか、どこからどこへ移したかを聞いておくと、後々の手続きがスムーズです。
遺言書の有無を確認する
遺言書があれば、相続手続きが大幅に簡略化されることがあります。親が元気なうちに、遺言書について話し合っておくことをお勧めします。
専門家に相談しておく
相続遺言専門の司法書士や弁護士に、事前相談しておくと安心です。いざという時に慌てずに済みます。
戸籍法改正以外の相続関連の法改正
実は、相続に関する法律は近年、次々と改正されています。
相続登記の義務化(2024年4月施行)
不動産を相続したら、3年以内に登記しないと過料(罰金)が科される可能性があります。
配偶者居住権の創設(2020年4月施行)
残された配偶者が自宅に住み続けられる権利が新設されました。
自筆証書遺言の保管制度(2020年7月開始)
法務局で自筆の遺言書を保管してもらえる制度がスタートしました。
これらの改正は全て、「高齢化社会における相続トラブルを減らし、手続きを円滑にする」ことを目的としています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 広域交付は手数料がかかりますか?
A. はい、通常の戸籍謄本と同じ手数料がかかります(1通450円程度)。ただし、郵送費や定額小為替の発行手数料が不要になる分、トータルでは安くなります。
Q2. 即日発行されますか?
A. 戸籍の通数が少なければ即日発行される場合もありますが、通数が多い場合は数時間かかることもあります。事前に電話で確認するとよいでしょう。
Q3. 兄弟の戸籍も一緒に取れますか?
A. 直系親族ではない兄弟姉妹の戸籍は、広域交付では取得できません。別途、正当な理由を示して請求する必要があります。
Q4. マイナンバーカードがあれば、コンビニで取得できますか?
A. 残念ながら、コンビニ交付では本籍地の戸籍しか取得できません。広域交付は窓口での請求が必要です。
まとめ:備えあれば憂いなし
2024年3月の戸籍法改正は、相続手続きに関わる全ての人にとって朗報です。
80代の親を持つ40代の皆さんは、まさに「相続の当事者予備軍」です。今のうちに制度を理解し、親と必要な会話をしておくことが、将来の安心につながります。
相続は、誰にでも必ず訪れるライフイベントです。突然やってきたときに慌てないよう、今から少しずつ準備を始めましょう。
もし相続や遺言について不安なことがあれば、お近くの相続遺言専門の司法書士に気軽に相談してみてください。私たち専門家は、皆さんの不安を解消し、円満な相続をサポートするためにいます。
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