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遺言書のお話

2026年05月21日

親の「デジタル遺産」2000万円が消える?今すぐ始めるべきデジタル資産の相続対策

大阪の遺言書作成サポート司法書士ゆいごんのしげもり

はじめに

「お父さんのスマホ、パスワードがわからなくて開けられない…」
「ネット銀行の口座があるらしいけど、どこの銀行かわからない…」
「大切な家族写真、全部クラウドに保存してあるのにアクセスできない…」

相続遺言専門の司法書士として、私はこうした相談を受けることが増えています。

2026年1月、アメリカの法律事務所Squillace & Associatesが発表した調査結果が、世界中の相続専門家に衝撃を与えました。

アメリカ人が保有するデジタル資産の平均価値は、約19万1516ドル――日本円にして約2000万円に達しているというのです。

しかし、その重要性を認識しながらも、適切な対策を取っている人は驚くほど少ないのが現実です。

この記事では、80代のご両親をお持ちの40代の皆さんに向けて、「デジタル遺産」という新しい相続課題と、その具体的な対策方法について、海外の最新情報を交えながら詳しく解説します。


デジタル資産とは何か

まず、「デジタル資産」とは何を指すのでしょうか。

デジタル資産とは、電子的に保存された、あなたが所有、使用、管理、または価値を得ている情報、そしてその情報が保存されているアカウント、プラットフォーム、デバイスのことを指します。

具体的には以下のようなものが含まれます。

個人的コミュニケーションとメディア
• メール、テキストメッセージ
• デジタル写真・動画
• SNSアカウント(Facebook、Instagram、X、LINEなど)

クリエイティブ資産と知的財産
• ブログ、ウェブサイト
• ドメイン名
• デジタルアート、NFT
• 電子書籍、デジタル音楽、映画

金融・資産ベースのアカウント
• オンライン銀行・証券口座
• 暗号資産ウォレット(ビットコイン、イーサリアムなど)
• デジタル決済アプリ(PayPay、LINE Pay、楽天ペイなど)
• 海外決済サービス(PayPal、Venmoなど)

ビジネス・商業用デジタル資産
• Eコマースストア(Amazon出品アカウント、楽天市場店舗など)
• 会計・給与管理プラットフォーム
• 収益化されたSNSアカウント(YouTubeチャンネル、noteなど)

サブスクリプション・ライセンス資産
• 電子書籍(Kindle、楽天Koboなど)
• デジタル映画・音楽
• ゲームライブラリ(Steam、Nintendo eShopなど)
• 各種サブスクリプションサービス

セキュリティ・認証ツール
• パスワードマネージャー
• 二要素認証アプリ
• 暗号化ドライブ

記録・データ・個人識別情報
• オンライン明細書
• 税務・医療ポータル
• 生体認証データ

リワード・ポイントプログラム
• 航空会社マイレージ
• ホテルポイント
• クレジットカードポイント

デジタル記念品・アーカイブコンテンツ
• 家系図サイトのアカウント
• クラウド保存されたアーカイブ

接続デバイス
• スマートフォン、タブレット、パソコン
• クラウドアカウントと連携したスマートホームデバイス

これらすべてが、現代における「相続財産」なのです。


衝撃の調査結果:デジタル資産の価値と認識のギャップ

アメリカのBryn Mawr Trustが実施した調査では、以下のような衝撃的な結果が明らかになりました。

デジタル資産の平均価値:約19万1516ドル(約2000万円)

保護の重要性を認識している人:79%
(これは、従来の金融資産について重要と考える78%とほぼ同じ割合)

しかし――

ファイナンシャルアドバイザーとデジタル資産について話し合ったことがある人:わずか44%

さらに、デジタル資産に関する知識レベルについては:
• 非常に/ある程度知識がある:29%
• 少し知識がある:21%
• 用語は聞いたことがあるがほとんど知らない:27%
• 用語を聞いたことがない:15%

つまり、多くの人が毎日デジタル資産を使っているにもかかわらず、それが「資産」であり「相続対象」であることを認識していないのです。

保有するデジタルアカウント数:5個〜250個(多くの人が正確な数を把握していない)


なぜデジタル資産の相続対策が必要なのか

「でも、デジタルのものだから、そんなに困らないんじゃないの?」

そう思われる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、デジタル資産の相続対策を怠ると、以下のような深刻なリスクが生じます。

リスク1:自分が持っているデジタル資産を把握していない

ほとんどの人は、自分の生活がどれだけデジタルに依存しているか気づいていません。

1日、1週間、1ヶ月を振り返ってみてください。アプリ、アカウント、請求書、サブスクリプション、クラウドストレージ、金融プラットフォーム――いくつ使っていますか?

デジタル資産の棚卸しをすることが、相続対策の第一歩です。

リスク2:自分のデジタルアカウントへのアクセスを失う(そして遺族も永久にロックアウトされる)

明確な計画がなければ、ご遺族は重要なデジタル財産を取り戻すことができません。

• デジタル決済アプリの残高
• 暗号資産
• 未使用のポイント・マイレージ
• クラウドに保存された重要書類

これらすべてが、永久に失われる可能性があります。

リスク3:かけがえのない写真、動画、メッセージ、個人の歴史を失う

すべてが一つのデバイスやロックされたクラウドアカウントに保存されている場合、あなたのかけがえのない思い出は永遠に消えてしまうかもしれません。

私が実際に相談を受けたケースでは、亡くなったお父様が撮影した何千枚もの家族写真が、パスワードのわからないiCloudに閉じ込められ、ご家族が途方に暮れていました。

リスク4:遺言執行者が遺産整理中にアクセス障壁に直面する

遺言執行者は、請求書、明細書、重要なオンライン文書にアクセスする必要がありますが、適切な権限がなければブロックされてしまいます。

日本の実務でも、故人のネット銀行口座の存在は把握していても、金融機関名やログイン情報がわからず、相続手続きが大幅に遅れるケースが増えています。

リスク5:死後の個人情報盗難・詐欺

犯罪者はしばしば故人をターゲットにし、休眠アカウントや公開される遺言検認情報を悪用します。

実際、アメリカでは故人のアカウントを使ったなりすまし詐欺が深刻な問題となっており、日本でも今後同様のリスクが高まることが予想されます。

リスク6:弱いサイバーセキュリティが遺産(と遺族)をリスクにさらす

弱いパスワード、多要素認証(MFA)の未設定、保護されていないファイルへの機密情報の保存などの単純なミスが、今も、そしてこれから先も脆弱性を生み出します。


デジタル資産保護のための6つの実践的ステップ

それでは、具体的にどのような対策を取るべきなのでしょうか。

アメリカの専門家が推奨する6つのステップを、日本の実情に合わせてご紹介します。

ステップ1:デジタル資産インベントリ(棚卸しリスト)を作成する

まず、日常生活を振り返り、使っているすべてのデジタルサービスをリストアップしましょう。

• 1日の中で使うアプリ・サービス
• 1週間に1回使うもの
• 1ヶ月に1回使うもの
• 年に数回しか使わないもの

これらをすべて、デジタル資産インベントリに記録します。

Excelやスプレッドシートで、以下の項目を記録することをお勧めします:
• サービス名
• アカウントの種類
• 登録メールアドレス
• 二要素認証の有無
• 重要度(高・中・低)
• 価値(金銭的価値がある場合)

ステップ2:アクセス情報を安全に保管する

重要な注意点:パスワードを遺言書に書いてはいけません!

遺言書は検認手続きで公開される可能性があり、パスワードが第三者に知られるリスクがあります。

代わりに:
• パスワードマネージャー(1Password、LastPass、Bitwardenなど)を使用する
• 二要素認証のバックアップコードを安全な場所に保管する
• 信頼できる人に、緊急時のアクセス方法を伝えておく

ステップ3:デジタル遺言執行者を指定する

通常の遺言執行者とは別に、または兼任させる形で、「デジタル遺言執行者」を指定することをお勧めします。

デジタル遺言執行者の役割:
• デジタル資産インベントリに基づいて、アカウントを確認する
• 必要なアカウントにアクセスし、資産を回収する
• 不要なアカウントを閉鎖する
• サブスクリプションを解約する
• SNSアカウントの追悼設定を行う

この指定は、遺言書または信託契約の中で明記する必要があります。

ステップ4:遺言書・信託契約にデジタル資産条項を追加する

日本の実務でも、デジタル資産に関する条項を遺言書に明記することが重要になってきています。

特に海外のサービスを利用している場合、サービス提供者が遺言執行者に情報を開示することに消極的なケースが多いため、明示的な権限付与が必要です。

条項例:
「遺言執行者は、私の死亡後、私のすべてのデジタル資産、オンラインアカウント、電子機器に対して完全なアクセス権を有し、これらを管理、閲覧、削除、譲渡する権限を持つものとする」

ステップ5:多要素認証(MFA)とバックアップコードの管理

セキュリティのためにMFAを使用することは重要ですが、相続の観点からは注意が必要です。

• MFAの方法(SMS、認証アプリ、物理キーなど)を記録する
• バックアップコードを印刷して、安全な場所に保管する
• 信頼できる配偶者やパートナーが緊急時にアクセスできるようにする

ステップ6:AppleやGoogleのレガシーコンタクト機能を設定する

Appleの「故人アカウント管理連絡先」やGoogleの「アカウント無効化管理ツール」を設定しましょう。

これらの機能を使えば、万が一の際に指定した人があなたのデジタルデータにアクセスできるようになります。

設定方法:
• Apple:設定 > [あなたの名前] > パスワードとセキュリティ > 故人アカウント管理連絡先
• Google:Googleアカウント > データとプライバシー > データの保存に関する設定 > アカウント無効化管理ツール


日本の実務での注意点

日本では、デジタル資産の相続に関する法整備がまだ十分ではありません。

特に注意すべき点:

サービス利用規約の確認
多くのオンラインサービスの利用規約には、「アカウントは譲渡できない」「本人以外の利用は禁止」といった条項があります。

遺族がアクセスするには、サービス提供者の許可が必要な場合があります。

金融機関の対応
ネット銀行や証券会社によって、相続手続きの方法が大きく異なります。

生前に問い合わせて、相続時の手続きを確認しておくことをお勧めします。

暗号資産の特殊性
暗号資産は、秘密鍵を知っている人だけがアクセスできます。

秘密鍵が失われると、どんなに高額な暗号資産でも永久に取り出せなくなります。

暗号資産を保有している場合は、必ず安全な方法で秘密鍵のバックアップを取り、信頼できる人にその存在を伝えておきましょう。


親御さんとの「デジタル終活」の話し方

80代のご両親と「デジタル終活」について話すのは、なかなか難しいものです。

以下のような切り口で、自然に会話を始めてみてはいかがでしょうか。

「最近、スマホの写真が増えて整理が大変なんだけど、お父さんはどうしてる?」
→ デジタル資産の話題を自然に切り出す

「ネットバンキング使ってる?もし何かあった時のために、どこの銀行か教えてもらえると助かるんだけど」
→ 具体的な情報共有をお願いする

「AppleのiCloudに家族で写真を共有する機能があるみたい。一緒にやってみない?」
→ 今からデジタル資産の共有を始める

「最近、デジタル遺産っていう言葉があるらしくて、仕事で勉強してるんだ」
→ 専門家として学んだことを共有する形で話す

重要なのは、「管理したい」「チェックしたい」という態度ではなく、「万が一の時に困らないように、一緒に準備しておきたい」という協力的な姿勢です。


まとめ:デジタル時代の相続対策は待ったなし

私たちは今、人類史上初めて「デジタル遺産」という課題に直面している世代です。

従来の相続対策――土地、建物、預金、株式――だけでは、もはや不十分です。

平均2000万円の価値があるとされるデジタル資産。

それは、金銭的価値だけでなく、かけがえのない思い出や、故人の人生の記録でもあります。

80代のご両親をお持ちの40代の皆さん、今がまさに準備を始める時です。

1. デジタル資産インベントリの作成
2. アクセス情報の安全な保管
3. デジタル遺言執行者の指定
4. 遺言書へのデジタル資産条項の追加
5. 多要素認証のバックアップ
6. レガシーコンタクト機能の設定

これらのステップを、一つずつ進めていきましょう。

相続遺言専門の司法書士として、私はこれからの時代、「デジタル終活」が相続対策の中心になると確信しています。

あなたの大切な財産と思い出を、次の世代にしっかりと引き継ぐために。

今日から、「デジタル遺産」について考え、行動を始めてみませんか。


参考資料
• Squillace & Associates, P.C. "Do Not Let Your Digital Life Die with You" (2026年1月13日)
https://squillace-law.com/2026/01/13/do-not-let-your-digital-life-die-with-you/
• Bryn Mawr Trust Survey on Digital Assets (2024年12月5日)


この記事を書いた人

相続遺言専門司法書士
80代の親を持つ40代の方々の相続・遺言に関する悩みに寄り添い、海外の最新情報も取り入れながら、時代に合った相続対策をご提案しています。デジタル資産の相続対策については、まだ日本では情報が少ない分野ですが、今後ますます重要になるテーマとして、積極的に情報発信を行っています。


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