

はじめに
「あなたに託したい」──92歳のブドウ農家の男性が、初対面のネットニュース編集者にそう言って、長年愛用してきた釣り道具を手渡したそうです。
Yahoo!ニュースで配信された記事『「あなたに託したい」高齢者3人から"終活の手伝い"を依頼されて感じ心意気』を読んで、相続遺言専門の司法書士として、改めて「終活の本質」について考えさせられました。
この記事は、ネットニュース編集者の中川淳一郎氏が、3人の高齢者の終活に関わった体験をレポートしたものです。特に印象的だったのが、佐賀県多久市に住む92歳のブドウ農家・Aさんのエピソードでした。
Aさんは初対面の中川氏に対し、「僕の釣り道具を引き取ってもらえないかね。これは僕の終活の一環です」と依頼し、さらに後日、1ドル=360円時代に免税店で購入した30本もの洋酒も託そうとしたのです。
この記事を通じて、私は「終活とは何か」「相続で本当に大切なことは何か」について、80代の親を持つ40代の皆さんにお伝えしたいことがたくさんあります。
終活の本質は「断捨離」ではなく「託す」こと
終活というと、多くの人が「モノを減らす」「片付ける」「断捨離する」といったイメージを持たれるかもしれません。確かに、生前整理や不用品の処分も終活の一部です。しかし、記事に登場したAさんの行動を見ると、終活の本質はもっと深いところにあることがわかります。
Aさんは、釣り道具や洋酒を「捨てる」のではなく、「託す相手を選んだ」のです。そして「あなたに託したい」という言葉には、「この人なら大切にしてくれる」「この人なら自分の想いを受け継いでくれる」という信頼と期待が込められています。
私たち司法書士が日々関わる遺言書の作成や相続手続きの現場でも、全く同じ構図を目にします。遺言書に「長男に自宅を相続させる」と書かれているとき、その背景には「長男なら実家を守ってくれる」という親の想いがあります。「次女に預金を遺贈する」と書かれているとき、そこには「いつも面倒を見てくれた次女に感謝を伝えたい」という気持ちが隠れています。
つまり、終活も相続も、単なる「モノの移転」ではなく、「想いを託す行為」なのです。
80代の親を持つ40代が今すぐすべきこと
もしあなたが80代の親を持つ40代なら、今この瞬間が「親の想いを聞ける最後のチャンス」かもしれません。
親が元気なうちに、次のような会話をしてみてください。
「お父さん、この釣り竿、まだ使ってる?」
「お母さん、この着物、どうするつもり?」
「実家の仏壇、将来どうしたらいい?」
こうした何気ない会話が、実は相続トラブルを防ぐ最強の予防策になります。なぜなら、相続争いの多くは「金額」の問題ではなく、「誰が何を受け継ぐか」という想いのすれ違いから生まれるからです。
「ふつうの家庭」ほど相続トラブルが多い現実
「うちは財産が少ないから、相続で揉めることはないだろう」──そう思っている方は多いのですが、実は逆です。
最高裁判所の「令和6年 司法統計年報」によると、遺産分割事件のうち、遺産価額5000万円以下が約78%を占めています。つまり、相続トラブルの大半は「ふつうの家庭」で起きているのです。
なぜでしょうか?
理由の一つは、「分けにくい財産」が多いことです。例えば、遺産が「自宅不動産」と「少しの預金」だけの場合、兄弟姉妹で公平に分けることは困難です。長