

はじめに
子どものいない夫婦にとって、相続は「まだ先のこと」と考えがちです。しかし、いざ相続が発生すると、想定外の相続人が登場し、財産分配や税負担をめぐって大きな問題が生じることがあります。特に注意すべきなのは、法定相続人と法定相続割合の違いが、相続税額に大きな影響を与えるという点です。
今回は、Yahoo!ニュースで話題になった税理士による解説記事をもとに、80代の親を持つ40代の方々に向けて、子どものいない夫婦が直面する相続の課題と、その対策について詳しく解説します。
子どものいない夫婦の相続 誰が相続人になるのか
民法では、相続人の範囲と順位が明確に定められています。
第一順位 子ども
第二順位 父母や祖父母などの直系尊属
第三順位 兄弟姉妹
子どもがいる場合、配偶者と子どもが相続人となります。しかし、子どもがいない夫婦の場合、第一順位である子どもが存在しないため、第二順位の父母(直系尊属)が相続人となります。
そして、父母も既に他界している場合には、第三順位である兄弟姉妹が相続人として登場します。
つまり、子どものいない夫婦では、配偶者だけでなく、亡くなった方の兄弟姉妹が相続に関与することになるのです。
例えば、夫が亡くなった場合、妻だけでなく、夫の兄弟姉妹も法定相続人となり、遺産分割協議に参加する権利を持つことになります。
兄弟姉妹が相続人になると何が起こるのか
兄弟姉妹が相続人になると、遺産分割協議が複雑化するリスクが高まります。
遺産分割協議とは、相続人全員で遺産の分け方を話し合い、合意に基づいて財産の帰属を決める手続きです。ここで重要なのは、全員の同意がなければ協議は成立しないという点です。
例えば、妻が「自宅に住み続けたい」と希望しても、夫の兄弟姉妹が「不動産を売却して現金で分けたい」と主張した場合、意見の対立が生じます。
また、夫婦それぞれに兄弟姉妹がいるケースでは、双方の兄弟姉妹が相続に関与することになり、関係者が増えることで、さらに話し合いが難航する可能性があります。
遺産分割協議がまとまらなければ、預貯金の解約や不動産の名義変更といった相続手続きが進まず、最悪の場合、家庭裁判所での調停や審判に発展することもあります。
遺言書で争いを回避する方法
こうした事態を防ぐために有効なのが、遺言書の作成です。
夫婦がお互いに「自分が亡くなった場合、全財産を配偶者に相続させる」という内容の遺言書を作成しておけば、兄弟姉妹との争いを回避できます。
なぜなら、日本の民法では、兄弟姉妹には「遺留分」が認められていないからです。
遺留分とは、一定の相続人に最低限保障された遺産の取り分のことで、配偶者・子ども・父母(直系尊属)には遺留分が認められていますが、兄弟姉妹には認められていません。
そのため、遺言書で「全財産を配偶者に相続させる」と明記しておけば、兄弟姉妹から遺留分侵害額請求を受けることはなく、配偶者が安心して財産を引き継ぐことができます。
遺言書の作成は、公正証書遺言が最も確実です。公証役場で公証人が作成するため、形式不備による無効のリスクがなく、原本が公証役場に保管されるため、紛失や改ざんの心配もありません。
養子縁組という選択肢とそのメリット・デメリット
子どものいない夫婦から、「養子を迎えたほうが安心ではないか」という相談を受けることがあります。
確かに、養子を迎えると、その養子は相続の第一順位となります。この場合、相続人は配偶者と子ども(養子)となり、相続割合はそれぞれ2分の1ずつです。兄弟姉妹は相続人から外れるため、遺言書を作成した場合と同じような効果が得られます。
しかし、見落とされがちなのが、相続税の税負担は「遺言書」と「養子縁組」で大きく異なるという点です。
相続税の計算構造 遺言書と養子縁組の違い
相続税は、遺産総額から基礎控除額を差し引いた金額に対して課税されます。
基礎控除額の計算式は以下の通りです。
基礎控除額 = 3000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
例えば、法定相続人が配偶者1人の場合、基礎控除額は3600万円です。
法定相続人が配偶者と養子1人の場合、基礎控除額は4200万円となります。
一見すると、養子縁組をしたほうが基礎控除額が増えて有利に思えます。
しかし、相続税には「配偶者の税額軽減」という特例があります。これは、配偶者が取得した遺産のうち、1億6000万円または法定相続分相当額のいずれか多い金額まで相続税がかからないという制度です。
ここで重要なのは、「法定相続分相当額」という部分です。
遺言書で全財産を配偶者に相続させた場合、配偶者は全財産を取得できますが、法定相続分は配偶者が2分の1です(兄弟姉妹がいる場合)。
一方、養子縁組をした場合、法定相続分は配偶者が2分の1、養子が2分の1となります。
遺産総額が多い場合、この法定相続分の違いが、配偶者の税額軽減の適用額に影響を与え、最終的な税負担に大きな差を生じさせることがあるのです。
記事によれば、場合によっては1億円もの税負担差が生じることもあるとのことです。
具体的なケーススタディ
ここで、具体的な例を考えてみましょう。
夫が亡くなり、相続財産が2億円あるとします。
ケース1 遺言書で全財産を妻に相続させた場合
相続人 妻のみ(兄弟姉妹は遺言書により除外)
基礎控除額 3000万円 + 600万円 × 1人 = 3600万円
課税遺産総額 2億円 - 3600万円 = 1億6400万円
ただし、妻は配偶者の税額軽減により、1億6000万円まで非課税となるため、実質的な税負担はほとんどありません。
ケース2 養子縁組をして、養子と妻が相続した場合
相続人 妻と養子
基礎控除額 3000万円 + 600万円 × 2人 = 4200万円
課税遺産総額 2億円 - 4200万円 = 1億5800万円
この場合、法定相続分に応じて税額を計算すると、妻と養子それぞれに相続税が発生する可能性があります。
妻が取得する財産が法定相続分(1億円)を超える場合、配偶者の税額軽減の枠を超えた部分に課税される可能性があるため、トータルの税負担が増えることがあります。
専門家への相談が不可欠な理由
このように、相続対策は単に「法的に有効かどうか」だけでなく、「税務上有利かどうか」という視点も必要です。
遺言書と養子縁組、どちらが適しているかは、家族構成、遺産の種類と金額、配偶者の年齢、将来の生活設計など、さまざまな要素を総合的に判断する必要があります。
相続に関する法律や税制は複雑で、しかも頻繁に改正されます。2026年度の税制改正大綱でも、富裕層を対象とした相続税・贈与税の規制がさらに強化されています。
だからこそ、相続遺言専門の司法書士や税理士など、専門家に相談することが重要です。
80代の親を持つ40代の方へ 今すぐ始めるべきこと
あなたの親御さんが80代ということは、いつ相続が発生してもおかしくない年齢です。また、あなた自身も40代であれば、自分自身の相続対策についても考え始める時期です。
今すぐ始めるべきことは以下の通りです。
1. 親や配偶者と相続について話し合う
「縁起でもない」と避けがちな話題ですが、元気なうちに話し合っておくことが、後の争いを防ぐ最善の方法です。
2. 財産の棚卸しをする
不動産、預貯金、有価証券、保険など、どんな財産があるのかを把握しましょう。
3. 相続人を確認する
誰が法定相続人になるのかを確認し、兄弟姉妹が相続人になる可能性があるかをチェックしましょう。
4. 遺言書の作成を検討する
公正証書遺言の作成を検討し、配偶者が安心して財産を引き継げるようにしましょう。
5. 専門家に相談する
相続遺言専門の司法書士や税理士に相談し、最適な対策を立てましょう。
まとめ
子どものいない夫婦の相続は、想定以上に複雑です。兄弟姉妹が相続人になることで、思わぬ争いや税負担が生じることがあります。
遺言書を作成することで法的な争いは回避できますが、養子縁組との選択では税負担に大きな差が生じることもあります。
「まだ先のこと」と考えず、今のうちから専門家に相談し、あなたとあなたの家族にとって最適な相続対策を立てることが大切です。
相続は、残された家族への最後の贈り物です。争いではなく、感謝と愛情で終えられるよう、今できることから始めましょう。
記事URL https://news.yahoo.co.jp/articles/c279da153ae1cf0b7efdb690bd365d0f042ab54c
プロフィール:繁森一徳
(司法書士しげもり法務事務所代表司法書士)
岡山県出身。岡山大安寺高等学校卒業、関西学院大学法学部卒業。現在は、大阪市の天王寺・上本町を拠点に、相続・遺言・生前贈与・民事信託(家族信託)に特化した法的支援を展開。地域に根差した活動も行っており、天王寺区や東成区などの各区役所・区民センターなどで、無料相談会の開催実績多数。
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