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遺言書のお話

2026年06月08日

家族信託で遺留分問題は解決できる?相続対策の誤解と正しい活用法を司法書士が解説

大阪の遺言書作成サポート司法書士ゆいごんのしげもり

「家族信託を設定すれば、遺留分の問題は解決できる」──相続の相談の場で、このような説明を耳にしたことはありませんか?実は、この認識は正しくありません。家族信託は非常に有効な相続対策ツールですが、遺留分対策としては機能しないというのが実務・学説の多数見解です。本記事では、Yahoo!ニュースで紹介された司法書士の解説をもとに、家族信託と遺留分の関係、そして80代の親を持つ40代の方々が今すぐ知っておくべき相続対策について、わかりやすくお伝えします。

遺留分とは何か?相続で最低限保障される権利

まず、遺留分について基本を整理しましょう。遺留分とは、一定の相続人が法律上最低限もらえる権利のことです。たとえば、遺言書に「全財産を長男に相続させる」と書かれていたとしても、他の相続人は「遺留分侵害額請求」を行うことで、自分の取り分を金銭で取り戻すことができます。

遺留分が認められているのは、配偶者・子(代襲相続人を含む)・直系尊属(父母・祖父母)です。一方、兄弟姉妹には遺留分がありません。したがって、兄弟姉妹への相続設計は比較的自由度が高いといえます。

重要なのは、この遺留分は遺言書だけでなく生前贈与にも適用されるという点です。過去10年以内の贈与は遺留分の計算に含まれることがあるため、生前に財産を移す場合も注意が必要です。

家族信託が遺留分対策にならない理由

では、なぜ家族信託は遺留分対策にならないのでしょうか。家族信託とは、信託法に基づいて財産の管理・処分を信頼できる家族(受託者)に任せる制度です。たとえば「父が自分の不動産を息子に信託し、収益は自分が受け取りながら、死後は孫に引き継がせる」といった設計が可能です。

この仕組みを見ると、「信託した財産は相続財産に入らないのでは?」と思われる方もいます。しかし実際にはそうはなりません。現在の実務・学説の多数見解では、信託財産は「みなし相続財産」として遺留分の計算に含まれると考えられています。

つまり、たとえ財産を信託によって息子に移転しても、他の相続人から「遺留分を侵害している」として遺留分侵害額請求をされる可能性があるのです。ただし2025年時点では、この点についての最高裁判例はまだ存在しません。

さらに、信託で遺留分を完全排除しようとすると「公序良俗違反」とみなされるリスクもあります。「信託したから遺留分は大丈夫」という説明には、十分注意が必要です。

受益者連続型信託における二次承継の可能性

ただし、一点だけ「例外的に有力な学説」として紹介したいケースがあります。それが「受益者連続型信託」の二次承継です。

受益者連続型信託とは、「父死亡→母が受益者→母死亡→子が受益者」というように、受益者が順番に変わっていく設計のことです。この場合、第一次承継(父から母)については遺留分の対象になり得るという見解が多数です。

一方、第二次承継(母から子)については、もともと信託契約で決まっていた権利の移転であり、母の相続財産とはいえないため、遺留分侵害額請求の対象にならないとする見解が有力です。ただし、こちらも同様に、最高裁判例は存在しません。実務でも確立した結論ではないため、遺留分を排除することだけを目的とするのは避けた方が無難でしょう。

家族信託が本当に力を発揮する3つの場面

では「遺留分対策にならないなら、家族信託は意味がないのか」というと、そんなことはありません。家族信託には、他の制度では代替できない強みがあります。

認知症対策としての圧倒的な優位性

親が認知症になると、「本人の判断能力が失われた」として、銀行口座が凍結されたり、不動産の売却ができなくなります。この問題を解決するために通常は「成年後見制度」が使われますが、家庭裁判所の関与が必要で、費用や手間がかかる上に、財産の使い道に制限がかかります。

一方、家族信託を事前に契約しておけば、親が認知症になった後も、受託者(例:長男)が財産の管理・売却・運用を柔軟に行うことができます。費用面でも、成年後見より低コストで運用できるケースが多いです。

80代の親を持つ40代の方にとって、これは非常に現実的な問題です。「まだ元気だから大丈夫」と思っているうちに、認知症は突然やってきます。そのときになって慌てても、すでに判断能力が失われていれば、家族信託の契約はできません。

二次・三次相続の設計が可能

遺言書で決められるのは、自分が亡くなった後の「一代分」の承継だけです。「妻に相続させた財産を、妻の死後には子に渡したい」という希望があっても、遺言書ではその先を縛ることができません。

家族信託なら、1つの契約で「自分→妻→子」という連続した承継を設計できます。これは遺言書にはできない、信託制度ならではの強みです。特に、配偶者が高齢で判断能力が不安定な場合や、子どもへの承継をスムーズにしたい場合に有効です。

不動産の塩漬けを事前に防ぐ

親名義の不動産は、親が認知症になった途端に売ることも貸すこともできなくなります。その結果「空き家」となり、管理コストだけがかかり続けるというケースは非常に多いのです。

あらかじめ、家族信託で受託者に不動産を信託しておけば、認知症を発症した後でも、受託者が売却や賃貸管理を行えるようになります。「売るに売れない」という相続あるあるを事前に防げるのです。

実家の不動産を将来どうするか、今のうちに親御さんと話し合い、必要に応じて家族信託の設定を検討することをお勧めします。

遺留分トラブルを防ぐ現実的な対策3選

では、実際に遺留分のトラブルを防ぐにはどうすればよいのでしょうか。現実的な方法を3つ紹介します。

対策1:遺留分の事前放棄(家庭裁判所の許可)

相続が始まる前でも、家庭裁判所の許可を得ることで遺留分を事前に放棄してもらうことができます。たとえば、長男が家業を継ぐ場合に、他の兄弟が「長男に全財産を渡すことに同意する」という形で遺留分を事前放棄するケースが典型例です。

ただし、家庭裁判所が本人の真意を厳しく確認するため、プレッシャーをかけて放棄させようとすると認められません。あくまで本人が自発的に納得した上での手続きが必要です。また、本人が自発的に納得している場合も、多額の生前贈与を受けているなど、遺留分放棄が認められるような事情も必要になるケースがほとんどです。

対策2:生命保険の活用

死亡保険金は、原則として相続財産に含まれません。そのため、遺留分の計算対象にもなりません。特定の子を受取人に指定した生命保険に加入することで、実質的に財産を偏らせることが可能です。

ただし、過度に高額な保険金については「特別受益」として遺留分計算に含めるべきとの裁判例もありますので、利用する際は専門家への相談をお勧めします。

対策3:遺留分に配慮した遺言書+付言事項

最も穏便にトラブルを防げる方法は、遺留分を侵害しないよう財産を計算した上で遺言書を作成することです。また、遺言書に「付言事項」として「なぜこの分け方にしたか」という親の気持ちや理由を書き残すことで、法的効力はないものの、家族への説明として機能し、感情的なトラブルを防ぐ効果があります。

「遺留分を侵害しないように設計した遺言書+手紙のような付言事項」の組み合わせは、費用対効果の面でも最も現実的な対策といえます。

親御さんの想いを文章で残すことは、法律以上に家族の心を動かす力を持っています。

80代の親を持つ40代が今すぐ始めるべきこと

相続は「いつか考えればいい」テーマではありません。特に、80代の親を持つ40代の方にとっては、「今、向き合うべき」テーマです。

まず、ゴールデンウィークやお盆など、家族が集まるタイミングで「実家の家や土地、将来どうする?」という話題を出してみてください。最初は気まずいかもしれませんが、親御さんも内心では気にかけていることが多いものです。

次に、親御さんの財産状況を整理しましょう。不動産、預貯金、有価証券、生命保険など、どこに何があるのかを把握することが第一歩です。

そして、必要に応じて専門家に相談してください。相続・遺言の専門家である司法書士や税理士は、家族の状況や想いに合わせて、複数の制度を組み合わせた最適な設計を提案してくれます。

相続対策は「制度ありき」ではありません。ご家族の状況や想いに合わせて、家族信託、遺言書、生命保険、成年後見などを組み合わせることが大切です。

まとめ:家族信託は万能ではないが、非常に強力なツール

家族信託は正しく使えば非常に強力な相続対策ツールです。しかし「何でもできる魔法の制度」ではありません。特に遺留分対策としては機能しないことを理解した上で、認知症対策や二次相続の設計など、家族信託が本当に力を発揮する場面で活用することが重要です。

目的に応じて、遺言書・生命保険・成年後見などの制度と組み合わせることで、初めて最適な相続設計が可能になります。遺留分・家族信託・相続設計について迷う点があれば、事前に専門家に相談するのがお勧めです。

手遅れになる前に、一歩を踏み出してみてください。親御さんの想い、ご自身の想い、そして家族の未来を守るために、今できることから始めましょう。

元記事:https://news.yahoo.co.jp/articles/cd62729e256b2bc0f6e005b38d6408b743d419e2

プロフィール:繁森一徳
(司法書士しげもり法務事務所代表司法書士)
岡山県出身。岡山大安寺高等学校卒業、関西学院大学法学部卒業。現在は、大阪市の天王寺・上本町を拠点に、相続・遺言・生前贈与・民事信託(家族信託)に特化した法的支援を展開。地域に根差した活動も行っており、天王寺区や東成区などの各区役所・区民センターなどで、無料相談会の開催実績多数。

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