

はじめに
先日、Yahoo!ニュースで非常に興味深い記事を読みました。
都内在住の44歳会社員男性が、72歳で急逝した父親の相続に直面したときの話です。遺産を整理してみると、預金はわずか800万円。ところが、父親が一人で暮らしていた都内の実家は、評価額が約2億円にものぼることが判明しました。
そして問題は、相続税です。計算してみると、約5,000万円。これを、相続発生から10カ月以内に現金で納めなければなりません。
「都内に実家があるから将来は安泰だと思っていた」という男性の言葉が、とても印象的でした。しかし現実は、高額な不動産があっても、それを現金化できなければ相続税が払えないという厳しいものだったのです。
私は相続遺言を専門とする司法書士として、日々多くの相続案件に関わっています。この記事を読んで、「これは決して他人事ではない」と強く感じました。
今回は、80代の親を持つ40代の皆さんに向けて、この事例から学べる相続の現実と、今からできる対策についてお話ししたいと思います。
なぜ「不動産は高額なのに相続税が払えない」事態が起きるのか
相続税は現金一括納付が原則
相続税は、原則として「現金で一括納付」しなければなりません。不動産をたくさん持っていても、それが直接納税に使えるわけではないのです。
もちろん、延納(分割払い)や物納(不動産などで納める)という制度もあります。しかし、延納は利息がかかりますし、物納は要件が非常に厳しく、簡単には認められません。
つまり、「相続税が発生する=現金が必要」という構図は、ほぼ動かせない現実なのです。
不動産の売却には時間がかかる
では、「実家を売って現金化すればいいのでは?」と思う方もいるでしょう。しかし、不動産の売却は想像以上に時間がかかります。
相続登記(名義変更)
境界確定・測量
遺品整理
売却活動(内覧・交渉)
契約・引き渡し
これらをすべて完了するには、通常6カ月から1年以上かかります。一方、相続税の申告・納付期限は「死亡から10カ月以内」です。葬儀や四十九日、遺品整理に追われていると、あっという間に時間が経ってしまいます。
感情が判断を遅らせる
記事の男性も語っていましたが、「曾祖父の代から続く家を、自分の一存で売却していいのか」という葛藤がありました。さらに、相続人ではない親族からも「売るなんて親不孝者だ」と言われ、時間だけが過ぎていったそうです。
これは、相続の現場で本当によくあることです。冷静に数字だけを見れば「売却するしかない」という結論に至るのですが、家族の思い出や親族の声が、判断を鈍らせるのです。
結局どうなったのか
記事の男性は、納税資金を工面するために金融機関から「つなぎ融資」を受ける決断をしました。高額な借金を背負い、利息を払いながら売却先を探す日々が続いているそうです。
つまり、相続税を払うために借金をし、その返済のために不動産を売る――という、非常に苦しい状況に陥ってしまったわけです。
80代の親を持つ40代に知ってほしい「相続の現実」
この事例は、決してレアケースではありません。特に、次のような条件に当てはまる方は要注意です。
親が都市部に持ち家を所有している
親の預貯金が少ない(1,000万円未満)
相続人が複数いる
実家に誰も住んでいない、または将来住む予定がない
こうした状況では、「不動産は高額だが現金がない」相続が発生しやすくなります。
相続税はいくらからかかるのか
まず、基本的な知識として、相続税の基礎控除額を知っておきましょう。
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
たとえば、法定相続人が2人(配偶者と子1人)の場合、基礎控除額は4,200万円です。遺産総額がこれを超えると、相続税が発生します。
都内の持ち家は、場所によっては評価額が1億円を超えることも珍しくありません。そこに預貯金や保険金が加わると、あっという間に基礎控除を超えてしまうのです。
今からできる相続対策とは
では、どうすればこうした事態を避けられるのでしょうか。私が相続の現場で常にお伝えしているのは、「親が元気なうちに準備する」ということです。
財産の棚卸しをする
まずは、親の財産がどれくらいあるのかを把握しましょう。
不動産(実家・土地・投資用物件など)
預貯金
生命保険
有価証券(株式・投資信託など)
その他(貴金属・自動車など)
不動産の評価額は、固定資産税の納税通知書や、国税庁の路線価図で確認できます。正確な金額を知りたい場合は、税理士に依頼するのがベストです。
相続税の試算をする
財産が把握できたら、次は相続税がいくらかかるのかを試算します。これも税理士に依頼するのが確実ですが、インターネット上の簡易計算ツールでも大まかな金額は分かります。
もし相続税が発生しそうであれば、早めに対策を考える必要があります。
生前贈与を活用する
相続税対策の王道は、生前贈与です。毎年110万円までは贈与税がかからない「暦年贈与」や、住宅取得資金の贈与特例などを活用すれば、相続財産を減らすことができます。
ただし、相続発生前3年以内の贈与は相続財産に加算されるルールもあるので、早めに動くことが大切です。
遺言書を作成する
遺言書があれば、遺産分割協議をする必要がなくなり、スムーズに相続手続きが進みます。特に、不動産を誰が相続するのかを明確にしておけば、後々のトラブルを防げます。
遺言書には、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3種類がありますが、私は公正証書遺言をおすすめします。公証人が関与するため、法的に確実で、紛失のリスクもありません。
生命保険を活用する
生命保険の死亡保険金は、「500万円×法定相続人の数」まで非課税です。つまり、相続人が2人なら1,000万円まで非課税になります。
預貯金を保険に変えておくだけで、相続税の負担を減らせる場合があります。また、保険金は現金で受け取れるため、納税資金として活用できるのも大きなメリットです。
家族信託を検討する
最近注目されているのが、「家族信託」という仕組みです。親が元気なうちに、財産の管理を子どもに任せる契約を結んでおくことで、認知症になった後も柔軟に財産を管理できます。
不動産を信託財産にしておけば、親が亡くなった後も名義変更がスムーズに進みます。
専門家に相談する重要性
相続対策は、税理士・司法書士・弁護士・ファイナンシャルプランナーなど、複数の専門家が関わる分野です。それぞれの役割を理解し、適切なタイミングで相談することが大切です。
司法書士ができること
私たち司法書士は、次のようなサポートができます。
相続登記(不動産の名義変更)
遺言書の作成支援
家族信託の組成
遺産分割協議書の作成
相続放棄の手続き
特に、不動産が絡む相続では、登記の専門家である司法書士の役割が非常に重要です。
税理士の役割
相続税の申告や節税対策は、税理士の専門分野です。財産の評価額を正確に算出し、最適な申告方法を提案してくれます。
弁護士の役割
遺産分割で争いが起きそうな場合や、すでにトラブルが発生している場合は、弁護士に依頼する必要があります。
まとめ:相続は「いざ」では遅い
今回ご紹介した事例のように、「不動産は高額だが現金がない」相続は、決して珍しいものではありません。特に、都市部に持ち家を持つ親を持つ40代・50代の方にとっては、明日にでも起こりうる問題です。
大切なのは、「親が元気なうちに動く」ことです。財産の棚卸し、相続税の試算、そして対策の実行。これらを今から進めておけば、いざというときに慌てずに済みます。
「まだ元気だから…」「縁起でもない」と先延ばしにする気持ちは、とてもよく分かります。しかし、相続は突然やってきます。そして、いざ起きてからでは、できることが限られてしまうのです。
もし少しでも不安を感じたら、ぜひ一度、専門家に相談してみてください。私たち司法書士は、ご家族に寄り添いながら、最適な解決策を一緒に考えます。
大切なご家族のために。そして、ご自身の将来のために。今から一歩、動き出してみませんか?
参考記事:https://news.yahoo.co.jp/articles/2173d2c7bad5bc5aa5386b77ddca982eeaa658ff