

相続放棄が年間30万件を突破した2024年。あなたの家族は大丈夫ですか?
相続遺言専門司法書士として、私は日々多くのご家族の相続問題に向き合っています。そして今、相続をめぐる状況が大きく変わろうとしています。2028年に導入予定の「デジタル遺言」が、相続トラブルを減らす救世主になる可能性があるのです。
本記事では、80代の親を持つ40代の方に向けて、相続放棄が増加している背景、デジタル遺言とは何か、そして今からできる相続対策について、専門家の視点から詳しく解説します。
相続放棄が30万件突破|2016年から1.5倍に増加した理由
最高裁判所が公表する司法統計によれば、相続放棄件数は2016年まで20万件以下でした。しかし2024年には初めて30万件を突破し、わずか8年で1.5倍に増加しています。
なぜこれほどまでに相続放棄が増えているのでしょうか。
理由は大きく分けて2つあります。
1つ目は、相続税の負担が大きいという問題です。2024年12月に54歳で急逝した中山美穂さんの総額約20億円と言われる遺産相続を、パリ在住の長男が放棄したケースは記憶に新しいでしょう。その相続放棄の原因は、高額な相続税と、決められた期限内に現金で納付しなければならないためだったと言われています。
2つ目は、親族のトラブル回避という理由です。こちらは富裕層だけの問題ではありません。実際に、準備がないまま相続を迎え、トラブルに発展するケースは一般家庭でも非常に多いのです。
相続トラブルを防ぐ「遺言書」を作る人が少ない現実
相続トラブルを回避するために欠かせないのが遺言書です。しかし、この遺言書を残す人は極めて少ないのが現実です。
弁護士法人・響の古藤由佳弁護士は次のように指摘しています。
「遺言書作成の要件は非常に厳しく、そもそも遺言書を作る人があまりいません。そのため、遺産分割の話し合いで揉めることは多いです」
作成に難色を示す人が多い遺言書の実態は、いったいどのようなものでしょうか。
自筆証書遺言の厳格な要件が高齢者の負担に
最も簡単なのが、遺言者本人が一人で作成できる「自筆証書遺言」です。しかし、この「簡単」というのは、あくまで「専門家の手を借りずに作成できる」という意味であり、実際には非常に厳格な要件があります。
自筆証書遺言では、本文に加えて日付と氏名の自書も必要です。さらに、財産目録がある場合は、目録1ページごとに署名押印が必要になります。
こうした項目を満たしていなければ、自筆証書遺言は無効になってしまいます。また、認知症などによって遺言能力に問題があった場合や、偽造が疑われる場合も無効になるケースがあります。
高齢の方にとって、全文を手書きし、細かい要件を満たすことは大きな負担です。そのため、遺言書を作成したいと思っても、実際に作成に至らないケースが多いのです。
公正証書遺言はコストがかかる
こうした問題を防ぐためにあるのが、「公正証書遺言」です。
公正証書遺言は、公証人に遺言内容を直接伝え、2人以上の証人立ち会いのもとで作成されます。そのため、遺言者の遺言能力や、本人が作成したという事実が保証されます。
偽造の心配がなく、法的に非常に有効性の高い遺言書ですが、公正証書遺言の作成にはコストがかかります。必要書類の取得費用、作成手数料、証人の日当、公証人の出張費用など、一般的には総額で10〜15万円前後が必要です。
この費用負担が、遺言書作成をためらう理由の一つになっています。
秘密証書遺言はほとんど利用されていない
ちなみに、遺言者以外内容を知ることができない「秘密証書遺言」という制度もあります。これは公正証書遺言よりも比較的安価に作成できますが、この制度はほとんど利用されていません。
そのため、事実上、遺言は自筆か公証人に依頼するしかないのが現状です。
2028年導入予定の「デジタル遺言」とは何か
そこで、新たに導入される「保管証書遺言」、通称"デジタル遺言"が注目されています。
デジタル遺言の導入を含む民法改正案が閣議決定され、この法案により、これまで認められていなかったPCやスマホ等で作成した遺言が有効になります。デジタル遺言は、2028年を目処に導入される予定です。
デジタル遺言の最大のメリットは、手書きの負担がなくなることです。パソコンやスマートフォンで文章を作成できるため、高齢の方でも比較的容易に作成できます。
また、法務局で保管する制度となるため、紛失や偽造のリスクも低減されます。さらに、あらかじめ指定した人に遺言書の存在を通知することで、相続手続きの円滑化を図ることができます。
デジタル遺言が普及するまでには時間がかかる可能性も
ただし、専門家の中には慎重な見方をする人もいます。
「遺言書を作成する方の多くが高齢者であることを考えると、直ちにデジタル遺言が普及するとは考えづらいかもしれません。ただ、遺言方法の多様化が進んでいくことは間違いないでしょう」
確かに、80代の高齢者がパソコンやスマホで遺言書を作成することに抵抗を感じる可能性はあります。しかし、選択肢が増えることは、相続対策を考える上で非常に重要です。
80代の親を持つ40代が今すぐすべき相続対策
ここからは、80代の親を持つ40代の方が今すぐできる相続対策について解説します。
「まだ元気だから大丈夫」が最も危険な思い込み
多くの方が「親はまだ元気だから、相続の話はまだ早い」と考えています。しかし、これは最も危険な思い込みです。
なぜなら、認知症が発症した後に書かれた遺言書は、判断能力の欠如を理由に無効とされるリスクが高いからです。
元気なうちに、早ければ早いほど良い。これが相続案件を長年扱ってきた専門家の一貫した答えです。
親と相続について話し合う機会を作る
まずは、親と相続について話し合う機会を作ることが大切です。
「縁起でもない」と思われるかもしれませんが、相続は必ず訪れる現実です。親が元気なうちに、財産の状況や希望を聞いておくことで、後のトラブルを防ぐことができます。
話し合いのポイントは以下の通りです。
・親がどのような財産を持っているのか(不動産、預貯金、株式など)
・遺言書を作成しているか、作成する意思があるか
・相続について、親自身がどのように考えているか
・兄弟姉妹がいる場合、それぞれの状況を共有する
財産の状況を把握する
相続が発生した際に第一にやるべきことは、「相続人調査」と「相続財産調査」です。
しかし、親が亡くなってから初めて財産を調べるのではなく、生前に大まかな財産状況を把握しておくことが重要です。
特に不動産については、登記簿を確認し、名義や担保の有無を確認しておくことをお勧めします。
専門家に相談する
相続は非常に複雑な手続きが必要です。特に、不動産が複数ある場合や、相続人が多い場合、あるいは家族関係が複雑な場合は、早めに専門家に相談することをお勧めします。
相続遺言専門の司法書士、弁護士、税理士など、それぞれの専門分野があります。状況に応じて、適切な専門家に相談しましょう。
遺言書作成を勧める
親が遺言書を作成していない場合は、作成を勧めましょう。
前述の通り、自筆証書遺言には厳格な要件があり、公正証書遺言にはコストがかかります。しかし、2028年にデジタル遺言が導入されるまで待つのではなく、今できる方法で遺言書を作成しておくことが大切です。
なぜなら、2028年まで待っている間に、親の判断能力が低下してしまう可能性があるからです。
相続放棄という選択肢もあることを知る
相続は必ずしも「受け入れるもの」ではありません。相続放棄という選択肢もあります。
相続財産よりも負債が多い場合や、相続トラブルに巻き込まれたくない場合、相続放棄を選択することもできます。
ただし、相続放棄には期限があります。相続の開始を知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述しなければなりません。
まとめ|デジタル遺言の導入を機に、家族で相続について話し合おう
2024年に相続放棄が30万件を突破し、2028年にはデジタル遺言が導入される予定です。相続をめぐる状況は大きく変わりつつあります。
しかし、どんなに制度が整っても、最も重要なのは「家族の対話」です。
80代の親を持つ40代の皆さん。親が元気なうちに、ぜひ一度、相続について話し合ってみてください。「まだ早い」ではなく、「今だからこそ」です。
デジタル遺言の導入は、相続における選択肢を増やす大きな一歩です。しかし、技術が進歩しても、家族の絆と対話に勝るものはありません。
相続は、家族の未来を守るための大切な準備です。この記事が、あなたとご家族の相続対策の一助となれば幸いです。
参考記事:https://news.yahoo.co.jp/articles/1a67d8f6a753dba6eb85a4d903f577402fad5710