

はじめに
「うちの親はまだ元気だから大丈夫」
「介護が必要になったら、そのとき考えればいい」
そう思っていませんか?
実は、そのとき考えようとしても、もう手遅れになっているケースが非常に多いのです。
私は相続遺言専門の司法書士として、これまで3000件以上のご家族の相談に応じてきました。その中で繰り返し目にしてきたのが、「もっと早く準備しておけばよかった」という後悔の声です。
今回は、Yahoo!ニュースで取り上げられた「自分介護」に関する記事を読んで、改めて感じたことをお伝えします。特に、80代の親御さんを持つ40代の皆さんに、ぜひ知っておいていただきたい内容です。
女性92歳、男性88歳──リアルな「最期」の年齢
皆さんは、日本人が亡くなる年齢で最も多いのが何歳かご存知でしょうか?
答えは、女性92歳、男性88歳です。
これは「死亡年齢最頻値」と呼ばれる統計で、平均寿命(女性87歳、男性81歳程度)よりも高い数字になっています。
つまり、多くの人が想像している以上に、老後は長いのです。
そして、その長い老後の中で、ほとんどの方が「介護」を経験します。記事にもあったように、終活の前に必ずやってくるのが介護です。それも、突然やってきます。
介護が必要になったとき、最大の問題は「お金」ではない
介護にはお金がかかる──これは誰もが知っていることです。
しかし、司法書士として現場で見てきた最大の問題は、「お金がない」ことではありません。
「お金はあるのに、使えない」
これが、最も深刻な事態なのです。
なぜこんなことが起こるのでしょうか?
認知症で預金口座が「凍結」される現実
親御さんが認知症などで判断能力を失うと、銀行口座は事実上「凍結」されます。
正確には、銀行が認知症と判断した時点で、本人以外の引き出しを認めなくなるのです。たとえ家族であっても、です。
「でも、キャッシュカードと暗証番号があれば引き出せるでしょう?」
そう思われるかもしれません。しかし、これは法的にはグレーゾーン、場合によっては違法行為とみなされる可能性もあります。
また、高額な医療費や介護施設の入居費用など、まとまったお金が必要な場面では、窓口での手続きが必要になります。そのときに、銀行から「ご本人の意思確認ができません」と言われてしまうのです。
不動産も同じ──売りたくても売れない
預金だけではありません。不動産も同様です。
「いざとなったら、実家を売って施設に入ればいい」
こう考えている方は多いのですが、本人の判断能力が低下した後では、不動産の売却は極めて困難になります。
不動産の売買契約には、本人の意思能力が必要です。認知症が進行していると、契約そのものが無効になる可能性があるため、不動産会社も司法書士も、契約を進めることができないのです。
結果として、
「親には持ち家がある」
「預金もそれなりにある」
「でも、施設の入居金が払えない」
という、皮肉な状況に陥ってしまうのです。
成年後見制度という「最後の手段」の問題点
判断能力を失った後でも、法的に財産を動かす方法はあります。それが「成年後見制度」です。
家庭裁判所に申し立てをして、後見人を選任してもらうことで、本人に代わって財産管理ができるようになります。
しかし、この制度には大きな問題点があります。
本人が亡くなるまで続く──一度始めたら、途中でやめられない
家族が後見人になれるとは限らない──専門職後見人が選ばれることも多い
毎月報酬が発生する──専門職後見人には月2万円〜6万円程度の報酬が必要
本人のためにしか使えない──相続税対策などの柔軟な対応ができない
つまり、成年後見制度は「緊急避難的な手段」であり、理想的な解決策ではないのです。
元気なうちにできる3つの法的準備
では、どうすればいいのか?
答えは、「元気なうちに準備する」ことです。
判断能力があるうちにしかできない、3つの法的準備をご紹介します。
1. 家族信託──財産管理を家族に託す
家族信託とは、自分の財産を信頼できる家族に託して、管理・処分してもらう仕組みです。
例えば、父親が息子に不動産と預金を信託し、父親が認知症になった後も、息子が父親のために財産を管理・活用できるようにする、というものです。
メリット
認知症になった後も、家族が財産を動かせる
成年後見制度よりも柔軟な対応ができる
相続税対策も並行して進められる
デメリット
契約書の作成や登記が必要で、初期費用がかかる
信託できる財産に制限がある場合も
2. 任意後見契約──将来の後見人を自分で選ぶ
任意後見契約とは、将来、自分の判断能力が低下したときに、誰に後見人になってもらうかを事前に決めておく契約です。
法定後見(成年後見制度)と違い、自分で後見人を選べるのが最大のメリットです。
メリット
信頼できる人を後見人に指名できる
どんな支援をしてもらいたいか、具体的に決められる
公正証書で作成するため、法的効力が強い
デメリット
判断能力が低下するまでは効力が発生しない
後見監督人の選任が必要になることが多い
3. 遺言書──相続トラブルを防ぐ
遺言書は、亡くなった後の財産の分け方を指定するものです。
「まだ元気だから、遺言書なんて早い」と思われるかもしれませんが、遺言書は何度でも書き直せます。むしろ、元気なうちに一度作成しておき、状況に応じて更新していくのが理想的です。
メリット
相続人間のトラブルを防げる
特定の人に財産を多く残したい場合に有効
遺言執行者を指定しておけば、手続きがスムーズ
デメリット
形式を間違えると無効になる(特に自筆証書遺言)
遺留分を侵害すると、後で請求されることも
親との「お金の話」、どう切り出すか
ここまで読んで、「確かに準備は大切だけど、親とお金の話をするのは気が重い…」と感じている方も多いでしょう。
実際、親子間で相続やお金の話をするのは、とてもハードルが高いものです。
しかし、何もしないまま時間が過ぎ、いざ介護が必要になってから「困った」となるよりも、今、少し勇気を出して話してみることが、結果的に親御さんの「自分らしい老後」を守ることにつながります。
話しやすいタイミングを見つける
親戚の不幸があったとき
ニュースで相続問題が取り上げられたとき
親が「最近、物忘れが増えた」と言ったとき
誕生日や正月など、家族が集まるタイミング
こうした「自然な流れ」で話題を出すと、話しやすくなります。
「私の将来のためにも教えてほしい」というスタンス
「お父さん、お母さんの財産はどうなってるの?」と直球で聞くのは、抵抗があるでしょう。
そんなときは、「私も将来のことを考えなきゃいけない年齢になったから、参考に教えてほしい」というスタンスで話すと、親も心を開きやすくなります。
専門家を交えて話す
どうしても話しにくい場合は、司法書士や弁護士、ファイナンシャルプランナーなどの専門家を交えて話すのも一つの方法です。
第三者がいることで、感情的にならず、客観的に話を進めることができます。
「自分介護」は親だけの問題ではない
記事のタイトルにあった「自分介護」という言葉。
これは、親の介護だけでなく、私たち自身の将来にも当てはまります。
80代の親を持つ40代の皆さん。
親の介護を考えることは、同時に、自分自身の将来を考えることでもあるのです。
親の介護を通じて学んだことを、自分自身の老後に活かす。
そのためにも、今、親と一緒に「法的な備え」について考えてみませんか?
まとめ──今日からできる3つのアクション
最後に、今日からできる3つのアクションをお伝えします。
親と「もしものとき」について話してみる
「認知症になったらどうする?」「介護が必要になったらどうしたい?」軽い会話からでOKです。
専門家に相談する
司法書士、弁護士、税理士など、相続や介護に詳しい専門家に一度相談してみましょう。多くの専門家が初回無料相談を行っています。
自分自身の将来も考える
親の介護は「明日の自分」でもあります。自分が将来、どんな老後を送りたいか、想像してみてください。
人生100年時代。
長い老後を「自分らしく」生きるために、法的な準備は欠かせません。
「もっと早く準備しておけばよかった」
そんな後悔をしないために、今日から一歩、踏み出してみませんか?
参考記事
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/b0924633f453a6fdb67a419ec8253dac0d68d8af