※あわわわクリーミーポタージュスープ
“財産を遺贈する”と知らずに署名してしまう高齢者が続出──身元保証サービスの闇と、司法書士が伝えたい本当の終活準備
【はじめに:優しさに見える“サポート”の裏側で】
「身寄りがない」「子どもに迷惑をかけたくない」「できる限り自分のことは自分で」
そんな高齢者の声を背景に、身元保証や終身サポートといったサービスが急速に広がっています。入院手続きや施設入居、死後の事務処理にまで対応してくれる、まさに“家族代行”としての存在──。
しかし最近、「契約書に“全ての財産を遺贈する”という文言が紛れ込んでいた」という重大なトラブルが表面化しました。このような契約は、果たして高齢者にとって本当に“支え”となっているのでしょうか。
私は大阪で司法書士として、日々高齢者の方々と接してきました。誰にも頼れず不安を抱える方、家族に迷惑をかけまいと我慢している方…その想いに寄り添う立場として、今回の問題をどう捉え、どんな対策が必要かを、皆さまと一緒に考えてみたいと思います。
【社会の現実:急増する一人暮らし高齢者と、サポートの“空白地帯”】
2020年の国勢調査では、65歳以上の単身世帯が約672万世帯と報告されています。これは20年前の倍以上で、今や10人に1人以上が「高齢の一人暮らし」という時代になりました。
こうした状況の中で、生活や契約における“保証人”の不在は、深刻な社会問題となっています。病院に入院する、施設に入居する、賃貸住宅を借りる──そのすべてに「保証人」が求められる場面が多く、「頼れる人がいない」という理由だけで適切なサービスを受けられない方が後を絶ちません。
その受け皿として登場したのが、「身元保証サービス」や「高齢者終身サポート」といった民間事業者によるサービスです。2017年には100社程度だった参入事業者は、2023年には400社以上と、わずか6年で4倍にまで増えています。
ですが、この市場は現在、監督官庁が定まっておらず、法的規制も存在しない“無法地帯”。誰でも始められるうえ、業者によって対応や倫理観、料金体系にばらつきがあるのが実情です。
【明るみに出た“遺贈契約”の実態】
今回報道された事例では、ある独り暮らしの高齢者が、スーツ姿のスタッフに契約書へのサインを求められ、「名前を書くだけ」と思い込み、内容を十分確認しないまま署名。契約書には「全ての財産を当社に遺贈する」との条項が含まれていたという衝撃的なものでした。
高齢者は善意に基づいて契約したつもりでも、法的には「財産のすべてを事業者に譲渡する」ことになってしまい、後にトラブルとなるケースが多発しています。私の事務所にも、「こんな契約を結んでしまっていたが、取り消せるのか」といったご相談が年々増えてきています。
過去には「日本ライフ協会」が2000人以上の高齢者から預かった約5億円を不正流用し、経営破綻した事件もありました。本来は弁護士を交えた三者契約の形を取るはずだったものが、いつの間にか協会が金銭を直接管理するようになっていたという、まさに“制度なき善意”の破綻例です。
【国民生活センターの報告:相談件数は5年間で約2.5倍に】
国民生活センターのデータによると、こうした身元保証サービスに関する相談件数は2019年度には133件だったのが、2024年度には313件と倍以上に増加しています。
相談内容は以下のようなものが目立ちます:
- サービスの内容が事前説明と異なる
- 想定より高額な請求を受けた
- 契約内容が不明瞭で、解約ができない
- 保証人を引き受けたが、実際には施設対応や通院同行もしてもらえない
- 死後の事務費用として高額な請求が届いた
【司法書士としてできること:トラブルを防ぐために今できる3つの対策】
こうした事態を防ぐには、契約の段階で「専門家に確認を依頼する」ことが非常に重要です。司法書士として、私がご提案する具体的な対策は以下の3点です:
1. **契約内容のチェックと説明を専門家に依頼する**
→ 書類の中に不利な文言や、将来のトラブルにつながる要素がないかを事前に確認します。
→ 特に「遺贈」や「財産管理」に関する条項には注意が必要です。
2. **財産管理や死後事務の準備を「任意後見契約」や「信託」で整える**
→ 信頼できる親族や第三者に財産の管理を託すことができます。
→ 万一認知症になったときも、希望通りの支援が受けられるようになります。
3. **公正証書遺言の作成と「死後事務委任契約」の活用**
→ 誰に何をどのように託すのかを明確にすることで、トラブルを未然に防ぐことが可能です。
→ 自筆ではなく公正証書にすることで、法的にも強い効力を持ちます。
【“安心の終活”は誰かと一緒に考えることから始まる】
「老後は自分でなんとかするつもり」
「家族に迷惑をかけたくないから」
そのお気持ちはとても尊いものです。でも、孤独や不安に耐えながら、自分ひとりで複雑な契約や財産管理を判断するのは、誰にとっても難しいことです。
私たち司法書士は、そうした高齢者の想いに寄り添い、必要な法的支援をわかりやすく、安心して受けていただけるよう心がけています。
【まとめ:誰のための“終活”なのか、今一度見つめ直しましょう】
終活とは、人生の最期を自分らしく締めくくるための大切なプロセスです。しかし、そこに“お金”や“家族関係の希薄さ”という現代社会ならではの問題が加わると、悪意ある事業者の格好のターゲットになってしまう危険があります。
だからこそ、「契約の前に相談する」「信頼できる仕組みを持つ」「周囲と情報を共有する」ことが何より大切です。
高齢の方が「安心して最後まで暮らせる社会」の実現のために、私たち司法書士が果たせる役割はまだまだ多いと感じています。
今、この記事をご覧になっている皆さまも、ご自身のこと、ご家族のこととしてぜひ一度考えてみてください。
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司法書士しげもり法務事務所
繁森 一徳(しげもり かずのり)
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