※スープの中で見えませんが極太平打ち麵
「相続のカタチ」が家族を壊すとき 〜“養子縁組”と終活の落とし穴を司法書士が考える〜
【はじめに:痛ましい事件が突きつける現実】
2024年6月、北海道小樽市で、父親が実の娘に暴力をふるいケガを負わせたという事件が報道されました。
その原因となったのは「相続」の話──もっと正確に言えば、父親が“内縁のパートナー”との関係を法的に整えたいと考えた結果、「同居女性の養子になってくれ」と実の娘に頼み、それを拒否されたことがきっかけでした。
法律家としてこのニュースを見たとき、私は非常に複雑な気持ちになりました。
この事件には、家族の絆と信頼が失われる瞬間、そして“終活”や“相続”の本来あるべき姿から逸れてしまった悲しさが詰まっています。
この記事では、今回の事件をきっかけに「終活と相続における人間関係の落とし穴」について、司法書士としての視点から丁寧にひもときながら、読者の皆様が“後悔しない終活”を考えるきっかけとなるような内容をお伝えいたします。
【事件の概要:相続が引き起こした親子の断絶】
報道によると、事件が起きたのは2024年6月3日正午ごろ。
小樽市稲穂の自宅に住む58歳の男性が、別居中の20代の娘に対して、「同居している女性の養子になってくれれば相続を受け取れるようになる」と持ちかけました。
この「養子縁組のお願い」を拒否し、その場を離れようとした娘の腕を掴んで強く引っ張り、打撲を負わせたとして、傷害の疑いで父親が逮捕されたのです。娘は交番に駆け込んで被害を訴え、父親は容疑を認めているとのことです。
一見、家庭内のトラブルのようにも見えるこの事件。
しかし、ここには「高齢者の終活の不安」「家族間の感情的なズレ」「法制度の使い方の誤解」といった、複雑な社会課題が凝縮されています。
【司法書士の視点①:「相続の手段」としての養子縁組】
まず押さえておきたいのは、「養子縁組」が法律上どのような意味を持つかということです。
日本の相続制度では、配偶者や子ども、直系尊属、兄弟姉妹が法定相続人となります。
しかし、内縁関係のパートナーには相続権がありません。いくら長年連れ添って生活を共にしていても、法律上の婚姻関係がなければ、遺産を相続することはできないのです。
そこで選択肢として出てくるのが、「養子縁組」。
例えば高齢者が再婚せずに長年連れ添ったパートナーに財産を残したい場合、そのパートナーを養子にすることで、相続人としての資格を与えることが可能になります。
法的には有効な手段ではありますが、注意すべきはこのプロセスが**人間関係に強い影響を与える**という点です。
・実子との関係性が悪化する
・「財産目当て」と受け取られる
・家族の信頼が崩れる
こうしたリスクを十分に考慮せず、「とにかく相続させたいから養子にすればいい」と単純に進めてしまうと、まさに今回のような“予期せぬ破綻”が生じてしまうのです。
【司法書士の視点②:「終活」が家族に伝えるべき本当のメッセージ】
そもそも、「終活」や「相続の準備」は、単に財産の分け方を決める行為ではありません。
本質的には、“自分の人生をどう締めくくるか”という**人生観**を、周囲の人にどう伝えるかということだと、私は考えています。
今回のケースでは、父親が「なぜその女性に相続させたいと思ったのか」、その理由や背景が娘に伝わっていなかったことが、大きなすれ違いを生んでしまった可能性があります。
・感謝の気持ち
・長年の生活へのねぎらい
・これまで支えてくれたことへの恩返し
こうした気持ちがあったとしても、形式だけを押し付けてしまうと、残された家族にとっては「納得できない不信感」しか残りません。
だからこそ、「言葉にして伝える」「丁寧に説明する」「気持ちを共有する」──この3つのプロセスが、終活には不可欠です。
【司法書士の視点③:終活に必要なのは「制度」と「対話」の両立】
私はこれまで多くの相続相談や遺言書作成のサポートを行ってきました。
そのなかで痛感しているのは、「制度の知識だけでは、家族の安心はつくれない」ということです。
相続には法律があります。養子縁組、遺言、公正証書、信託など、活用できる制度も整っています。
しかし、それらを使いこなすには「誰に、何を、どんな気持ちで残したいのか」という、心の整理が必要です。
たとえば、
・「実子とは疎遠だけれど、財産は公平に分けたい」
・「内縁のパートナーにも感謝を形にしたいが、家族とのトラブルは避けたい」
・「老後の生活を支えてくれる人にきちんと報いたい」
こうした思いをきちんと整理してから制度を選べば、トラブルはぐっと減ります。
そして、そのために必要なのが「対話」──信頼できる第三者との冷静な話し合いです。
私たち司法書士の役割は、単なる書類作成ではありません。
相談者の思いを言語化し、それを家族に正しく伝えるための橋渡しをすることも、大切な仕事だと考えています。
【まとめ:相続は“法”だけでなく“想い”で整える】
今回の事件は、たった一つの法的手段「養子縁組」が、十分な説明も合意形成もないまま使われたことで、大切な家族関係が壊れてしまったという痛ましい例でした。
終活において何より大切なのは、「相手の立場に立って考える」こと。
そして、制度の利用は**その先にある手段**であるべきです。
私たち司法書士は、
・法的に整える
・想いを汲み取る
・家族をつなぐ
この三つを意識しながら、皆さまの“後悔のない終活”を支援しています。
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「自分の相続、どう考えればいいかわからない」
「家族に迷惑をかけたくないけど、どう準備すればいい?」
「再婚相手や内縁の人のことも、ちゃんと考えてあげたい」
そんなお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度ご相談ください。
相続や終活は、誰かの人生の終わりではなく、
**家族の未来の“安心”をつくるための第一歩**です。
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司法書士しげもり法務事務所
代表司法書士 繁森一徳
大阪市天王寺区/相続・高齢者支援専門