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遺言書のお話

2026年01月17日

親代わりの叔母の“想い”に揺れる姪の葛藤──司法書士の視点で読み解く「遺言の本当の意味」【前編】

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親代わりの叔母の“想い”に揺れる姪の葛藤──司法書士の視点で読み解く「遺言の本当の意味」【前編】


 


【はじめに】

こんにちは。大阪市で司法書士をしております、繁森一徳です。


今回のエピソードは、「叔母から“全財産を譲る”と言われた姪が抱えた葛藤」という実話をもとにした記事をご紹介しながら、司法書士としての視点から相続・終活について深く考えていくものです。


このような話は、決してドラマの中だけの話ではなく、私たちが日々接している現実の中で、ごくありふれたテーマになりつつあります。


特に、少子化・高齢化が進む中で、「配偶者を亡くし、子どもとも疎遠になった高齢者が、親代わりに支えてくれた甥や姪に財産を譲りたい」というご相談は増えています。しかしその一方で、「相続人」として法的に財産を受け取る権利を持つ親族が他にいるケースも多く、そこには“法”と“想い”の狭間で揺れる人間ドラマが生まれます。


 


【ストーリーの概要】

今回取り上げる事例の主人公は、東京都在住の会社員・田中茉莉花さん(仮名・55歳)。


彼女は幼い頃に両親を亡くし、その後は父の妹である叔母に育てられました。叔母は名古屋で一人暮らしをしており、現在80歳。田中さんにとっては“親代わり”であると同時に、年の離れた親友のような存在でもあり、これまで何度となく支え合ってきた関係性です。


そんな叔母からある日、「大事な話があるので、名古屋に来てほしい」と呼び出されます。


仕事の都合をつけ、ようやく名古屋に向かった田中さんを待っていたのは、見慣れぬ女性司法書士と、思いがけない遺言の話でした。


叔母の言葉はこうです──

「私の財産は、全部、茉莉花に譲りたい」


 


【叔母の真意と姪の戸惑い】

叔母の財産は、田中さんが想像していた以上に多額で、その評価額は1億円を超えていました。


自宅不動産に加え、金融資産、そして叔父が残した会社の株式。資産形成の詳細はさておき、80代でこれだけの財産を残すには、それなりの計画性と節制があったことでしょう。叔母はお金の使い道について、「もうこの年になると、使いたくても使い切れない」と語り、次に備えて“きちんと整理しておきたい”という終活の意識を持っていました。


このように、本人の意思がしっかりしている段階で相続や遺言の話を始めることは、とても理想的な姿です。しかし、いざ「すべてをあなたに託したい」と言われた田中さんの心は、複雑に揺れます。


理由は2つ。


1つは、叔母の一人息子である直樹さん(故人)に娘がいるという点。つまり、法的にはその娘が“代襲相続人”として第一順位の相続人になります。


そしてもう1つは、故人の奥さん、つまり孫娘の母親である佑衣さんの存在。すでに離婚状態に近く、音信不通とのことですが、田中さんとしては「叔母の遺産は本来、その親族に役立ててもらうべきではないか」という葛藤があるのです。


実際、田中さんはこれまで、叔母が入院した際や介護保険の手続きのために、何度も名古屋に足を運んできました。その「時間」と「労力」は、実質的に“親孝行”そのものであり、叔母が田中さんに全財産を託したいという気持ちも痛いほど理解できます。


しかし一方で、「お金が絡むと人間関係は壊れる」ということも、田中さんは直感的に分かっていたのです。


 


【司法書士が果たした役割】

この場に同席していたのが、司法書士の稲垣さん。


彼女は、叔母の意向をただ書面にするだけでなく、田中さんの気持ちも丁寧に汲み取り、「関係性を壊さずに遺言を実現する方法」について、第三者の立場から説明を始めました。


私が特に印象に残ったのは、稲垣さんが「包括遺贈」という言葉を使いながらも、その意味を法律用語に偏らず、非常にわかりやすく説明していた点です。


包括遺贈とは、「財産のすべて、または割合を指定して、特定の人に譲る」という形の遺言です。この方法は、法定相続人以外の人に遺産を託したいときによく使われますが、注意点もあります。


・受け取る側にとっては“債務も含めて”承継する可能性がある

・他の相続人との関係調整が必要

・遺留分侵害額請求の対象になる場合がある


こういった点を正しく伝えながらも、「法律論」ではなく、「人と人との気持ちの整理」に重きを置いて話を進める司法書士の存在は、相続の現場ではとても重要です。


 


【相続とは“家族のストーリー”である】

今回のエピソードは、金額だけを見ると「一億円を相続するか否か」というスケールの大きな話に思えます。


しかし、その本質は「家族の歴史」「感謝の気持ち」「恩返し」「迷い」といった、人間らしい感情の積み重ねの中にあります。


相続は、亡くなった後に起きる手続きではなく、「今、生きている人たちの未来の関係性」を左右するものです。


だからこそ、“今”から対話を始めること、そしてその対話に法律の専門家が関わることには、大きな意味があります。


 


【後編への展望】

この後編では、司法書士の稲垣さんが田中さんに示した「第三の選択肢」──それは、単に「すべてを受け取る」でも「すべてを断る」でもない、中庸で、納得度の高い選択肢です──を中心に、より深い相続のリアルをお伝えします。


相続で最も大切なことは、「法律通りに分けること」ではありません。


大切なのは、

・どんな想いで残そうとしているのか

・その想いをどう受け止めるのか

・周囲の人とどう“納得”を共有できるか

この3つです。


皆さんのご家庭でも、相続や遺言の話題は決して避けてはいけません。


ぜひ、この連載が“最初の対話のきっかけ”になれば幸いです。


――――――――――

司法書士しげもり法務事務所

繁森 一徳

(大阪市/相続・遺言・高齢者支援専門)


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