
はじめに|帰省中の「100万円」に隠された税務リスク
「相続対策になるから受け取って」――80代の親御さんから、帰省のたびにこんな言葉とともに現金を渡されたことはありませんか?
親の優しさと思いやりから始まる生前贈与。しかし、2024年からの税制改正により、この「善意の贈与」が思わぬ税務リスクを生む可能性が出てきました。
本記事では、相続・遺言専門の司法書士として、80代の親を持つ40代の皆さんに向けて、2026年の今だからこそ知っておくべき「生前贈与の新ルール」を、わかりやすく解説します。
生前贈与の基本|年間110万円までは贈与税がかからない
まず基本から確認しましょう。日本の贈与税には「暦年課税」という仕組みがあり、1月1日から12月31日までの1年間に受け取った財産の合計額から110万円を差し引く「基礎控除」が設けられています。
つまり、年間110万円までの贈与であれば、贈与税は一切かかりません。
親から100万円をもらった場合、この基礎控除の範囲内なので、贈与税そのものは0円。贈与税の申告も不要です。
「それなら安心じゃないか」と思われるかもしれません。しかし、問題はここからです。
2024年税制改正の衝撃|「3年ルール」から「7年ルール」へ
改正前:相続開始前3年以内の贈与が加算対象
従来、亡くなる前の「3年以内」に行われた贈与は、相続財産に「持ち戻し」されて、相続税の計算に含まれるルールがありました。
例えば、2023年に100万円の贈与を受け、2025年に親が亡くなった場合、その100万円は相続財産に加算されて相続税の対象となります。
改正後:相続開始前7年以内に延長
2024年1月1日以降の贈与から、この持ち戻し期間が「3年」から「7年」に延長されました。
つまり、贈与を受けてから7年以内に親が亡くなった場合、その贈与は相続財産に加算されることになります。
2026年は移行期間|いつから7年ルールが適用される?
この「7年ルール」は、すぐに完全適用されるわけではありません。2026年の現在は、段階的な移行期間の真っ只中です。
相続開始時期による適用ルールの違い
2026年12月31日までに相続が発生した場合
従来どおり「相続開始前3年以内の贈与」が加算対象
2027年1月1日から2030年12月31日に相続が発生した場合
「2024年1月1日以降の贈与」が幅広く加算対象に(実質4から6年程度)
2031年1月1日以降に相続が発生した場合
完全に「7年ルール」が適用される
具体例で理解する
2024年に親から100万円をもらった場合:
2026年に親が亡くなる場合は、3年以内なので加算対象
2027年に親が亡くなる場合は、2024年以降の贈与なので加算対象
2031年以降に親が亡くなる場合は、7年以内なので加算対象
つまり、2024年以降にもらった贈与は、2031年以降まで「持ち戻し」のリスクを抱え続けることになります。
救済措置もある|4から7年目の贈与には100万円の緩和措置
ただし、すべての贈与が厳しく課税されるわけではありません。
相続開始前4から7年目(延長された部分)の贈与については、合計100万円まで相続財産に加算しないという緩和措置が設けられています。
計算例
毎年110万円ずつ、7年間贈与を受けた場合:
総贈与額:110万円×7年=770万円
相続開始前1から3年分:110万円×3年=330万円(全額加算)
相続開始前4から7年分:110万円×4年=440万円(100万円控除後340万円が加算)
加算総額:330万円+340万円=670万円
緩和措置により、100万円分の負担軽減が図られます。
相続対策として生前贈与は意味がなくなった?
「それなら、もう生前贈与は意味がないのでは?」という声も聞こえてきそうです。
しかし、それは早計です。生前贈与の有効性は、以下の点で今も健在です。
1. 早めの贈与は依然として有効
贈与から7年以上経過すれば、その贈与は相続税の対象外となります。親が70代、自分が40代のうちから計画的に贈与を始めれば、十分な節税効果が期待できます。
2. 相続財産の圧縮効果
財産の評価額が上昇する前に贈与することで、将来の相続税負担を軽減できます。特に不動産や株式など、評価額が変動する資産では有効です。
3. 争族対策としての効果
生前贈与は、相続税対策だけでなく、「誰に何を渡すか」を生前に明確にすることで、相続争いを防ぐ効果もあります。
新たな選択肢|相続時精算課税制度の活用
2024年の税制改正では、もう一つ大きな変更がありました。
相続時精算課税制度にも、年間110万円の基礎控除が新設されたのです。
相続時精算課税制度とは?
60歳以上の親や祖父母から、18歳以上の子や孫への贈与について、累計2,500万円まで贈与税がかからない制度です。ただし、相続時にはその贈与額が相続財産に加算されます。
新設された110万円控除の意味
従来は「少額でも必ず相続財産に加算される」ことがデメリットでしたが、2024年からは年間110万円以内の贈与であれば、相続財産にも加算されないことになりました。
これにより、暦年贈与と同様の節税効果を得ながら、大型の贈与にも対応できる柔軟な制度となりました。
40代の今、やるべき相続対策とは?
80代の親を持つ40代の皆さんが、今すぐ取り組むべきことは何でしょうか。
1. 親の財産状況を把握する
まずは、親がどのような財産を持っているのかを把握しましょう。不動産、預貯金、有価証券、保険など、全体像を見える化することが第一歩です。
2. 家族で話し合いの場を持つ
相続や贈与の話は切り出しにくいものですが、親が元気なうちに話し合うことが重要です。親の意向を尊重しながら、家族全体で方向性を共有しましょう。
3. 贈与の記録を必ず残す
生前贈与を行う場合は、「贈与契約書」を作成し、銀行振込で記録を残すことが大切です。現金手渡しは、税務署に「贈与の事実」を証明できず、トラブルの元になります。
4. 専門家に相談する
税制は複雑で、個々の状況によって最適な対策は異なります。司法書士、税理士、弁護士など、相続の専門家に早めに相談することをお勧めします。
注意すべき「定期贈与」のリスク
生前贈与で注意したいのが、「定期贈与」と見なされるリスクです。
定期贈与とは?
「毎年100万円を10年間贈与する」といった約束を最初にしてしまうと、税務署から「最初から1,000万円を贈与する約束だった」と判断され、一括で贈与税が課される可能性があります。
定期贈与を避けるための3つのポイント
1. 毎年、贈与契約書を作成する(金額や時期を変える)
2. 贈与の都度、受贈者の口座に振り込む
3. 受贈者が自由に使える状態にする(親が通帳を管理しない)
まとめ|親の想いを無駄にしないために
親から受け取る100万円は、単なるお金ではありません。そこには「子どもの将来を案じる親の想い」が込められています。
その想いを無駄にしないためにも、正しい知識を持ち、適切な手続きを踏むことが大切です。
2026年の今は、生前贈与のルールが大きく変わる移行期間。これからの相続対策は「ただ贈与すればいい」という時代ではなくなりました。
贈与のタイミング
金額設計
記録の残し方
制度の使い分け
これらを総合的に考え、家族にとって最適な資産承継プランを描いていく。それが、親の想いに応える最良の方法ではないでしょうか。
親御さんとの大切な時間を、税金の不安なく過ごすために。早めの準備と専門家への相談を、ぜひご検討ください。
参考記事URL: https://news.yahoo.co.jp/articles/5a19dcf75d7cc0955052896c1a8c992e6feb139b