
【目次】
1. 認知症で銀行口座が凍結される理由
2. 成年後見制度の限界と課題
3. 家族信託とは何か?基本の仕組みを解説
4. 家族信託と成年後見制度の違い
5. 家族信託のメリット・デメリット
6. 家族信託が向いている家族、向いていない家族
7. 家族信託の手続きと費用
8. 実際の活用事例
9. 今すぐ始めるべき理由
10. まとめ
## 1. 認知症で銀行口座が凍結される理由
「親が認知症になったら、預金が引き出せなくなる」
こんな話を聞いたことはありませんか?これは決して都市伝説ではなく、実際に起こりうる深刻な問題です。
高齢化が進む日本では、2025年には65歳以上の5人に1人が認知症になると推計されています。つまり、誰にでも起こりうる問題なのです。
なぜ認知症になると口座が凍結されるのでしょうか?
金融機関は、本人の判断能力が低下していると判断した場合、本人確認や意思確認ができないため、預金の引き出しや振込などの取引を停止します。これは、不正な引き出しや詐欺被害から本人の財産を守るための措置です。
しかし、これが家族にとっては大きな問題となります。
親の医療費や介護費用を親の預金から支払おうとしても、口座が凍結されていれば引き出せません。結果として、子どもが立て替えざるを得なくなり、経済的な負担が重くのしかかります。
## 2. 成年後見制度の限界と課題
認知症による資産凍結への対策として、従来から「成年後見制度」が用いられてきました。
成年後見制度とは、判断能力が不十分な方の財産管理や身上保護を、家庭裁判所が選任した後見人が行う制度です。
しかし、この制度にはいくつかの課題があります。
【成年後見制度の課題】
・家庭裁判所の監督下に置かれ、自由な財産活用ができない
・後見人への報酬が継続的に発生する(月2〜6万円程度)
・本人の死亡まで制度が継続し、途中でやめられない
・親族が後見人になれないケースが増えている
・相続対策(生前贈与など)ができない
・柔軟な資産運用ができない
特に、不動産の売却や大きな支出には家庭裁判所の許可が必要となるため、「実家を売って介護施設の入居費用にしたい」といった家族の希望が、すぐには実現できないことがあります。
こうした成年後見制度の硬直性が、より柔軟な財産管理の仕組みを求める声につながっています。
## 3. 家族信託とは何か?基本の仕組みを解説
家族信託とは、財産を持っている人(委託者)が、信頼できる家族(受託者)に財産の管理・処分を任せる契約のことです。
【家族信託の基本構造】
・委託者:財産を預ける人(親)
・受託者:財産を管理する人(子など)
・受益者:財産から利益を受ける人(通常は親本人)
例えば、父親が所有する不動産や預金を、長男に管理してもらう契約を結びます。父親が認知症になった後も、長男は契約に基づいて不動産の売却や賃貸管理、預金の運用などを行うことができます。
重要なのは、この契約は父親が元気なうちに、判断能力があるうちに結ぶ必要があるということです。すでに認知症が進行してしまっている場合は、家族信託の契約はできません。
## 4. 家族信託と成年後見制度の違い
家族信託と成年後見制度には、大きな違いがあります。
【開始時期】
・家族信託:本人が元気なうちから開始
・成年後見:判断能力が低下してから開始
【管理の自由度】
・家族信託:契約内容に基づき、柔軟に財産管理できる
・成年後見:家庭裁判所の監督下で、本人の利益のために保守的に管理
【費用】
・家族信託:初期費用(設計・登記費用など)のみ
・成年後見:継続的な報酬が発生
【相続対策】
・家族信託:生前贈与や資産組み替えなどの対策が可能
・成年後見:相続対策は原則できない
【終了時期】
・家族信託:契約で自由に設定できる
・成年後見:本人の死亡まで継続
## 5. 家族信託のメリット・デメリット
【家族信託のメリット】
(1)認知症になっても財産管理が継続できる
口座凍結のリスクを回避し、介護費用の支払いや不動産の売却などがスムーズに行えます。
(2)柔軟な財産活用ができる
賃貸経営の継続、不動産の組み替え、相続対策など、家族の状況に応じた柔軟な対応が可能です。
(3)二次相続以降も指定できる
「父から母へ、母から長男へ」といった複数世代にわたる承継を、あらかじめ指定できます。
(4)コストを抑えられる
成年後見制度のような継続的な報酬が不要なため、長期的にはコストを抑えられます。
(5)プライバシーが守られる
家庭裁判所への報告義務がないため、家族内で完結します。
【家族信託のデメリット】
(1)判断能力があるうちにしか契約できない
すでに認知症が進行している場合は利用できません。
(2)専門的な設計が必要
税務・法務の知識が必要で、専門家のサポートが不可欠です。
(3)受託者の負担が大きい
財産管理の責任を負うため、受託者には相応の負担がかかります。
(4)家族間の信頼関係が前提
受託者が不適切な管理をした場合、トラブルになる可能性があります。
(5)身上保護はできない
成年後見制度のような身上保護(介護契約など)の権限はありません。
## 6. 家族信託が向いている家族、向いていない家族
【家族信託が向いているケース】
・不動産や金融資産を複数持っている
・賃貸経営などの収益不動産がある
・相続対策を並行して進めたい
・家族間の信頼関係が良好
・柔軟な資産活用をしたい
・後見制度の硬直性を避けたい
【成年後見制度が向いているケース】
・すでに判断能力が低下している
・身上保護(介護契約など)が必要
・財産が少なく、管理が単純
・信頼できる家族がいない
・公的な制度を利用したい
## 7. 家族信託の手続きと費用
【手続きの流れ】
(1)専門家への相談
司法書士や弁護士に相談し、家族の状況に合った信託設計を行います。
(2)信託契約書の作成
公正証書で契約書を作成します(公証役場で手続き)。
(3)信託口座の開設
信託財産を管理するための専用口座を開設します。
(4)不動産の信託登記
不動産を信託財産とする場合は、法務局で信託登記を行います。
(5)信託の運用開始
契約内容に基づき、受託者が財産管理を開始します。
【費用の目安】
・専門家への報酬:30万円〜100万円程度
・公正証書作成費用:3万円〜10万円程度
・信託登記費用:登録免許税(固定資産税評価額の0.3〜0.4%)
・その他:信託口座開設費用など
合計で50万円〜150万円程度が一般的ですが、財産の種類や規模によって変動します。
## 8. 実際の活用事例
【事例1:賃貸マンション経営の継続】
父親(75歳)が所有する賃貸マンションの管理を、長男に信託。父親が認知症になった後も、長男が賃料の受け取り、修繕、テナント対応などを継続。賃貸経営が滞ることなく、安定した収入を確保。
【事例2:実家の売却と介護施設入居】
母親(80歳)が所有する実家を、次女に信託。母親が認知症を発症し施設入居が必要になった際、次女が実家を売却して入居費用に充当。スムーズな資金確保が実現。
【事例3:二次相続対策】
父親の財産を母親と長男に信託。父親死亡後は母親が受益者、母親死亡後は長男が取得する設計。遺言では実現できない二次相続まで指定し、将来の紛争を予防。
## 9. 今すぐ始めるべき理由
「まだ親は元気だから大丈夫」
「うちは財産が少ないから関係ない」
そう思っていませんか?
実は、認知症は突然やってきます。昨日まで元気だった親が、転倒や病気をきっかけに急速に判断能力が低下することも少なくありません。
家族信託は、本人の判断能力があるうちにしか契約できません。「そろそろ考えよう」と思った時には、すでに手遅れということもあるのです。
また、財産の多寡は関係ありません。預金と自宅だけでも、認知症による口座凍結や不動産売却の問題は発生します。
今、親が元気なうちだからこそ、家族で将来のことを話し合い、適切な準備をしておくことが大切です。
## 10. まとめ
家族信託は、認知症による資産凍結リスクに備える、有効な手段の一つです。
成年後見制度と比べて柔軟な財産管理ができ、家族の状況に合わせた設計が可能です。ただし、専門的な知識が必要で、本人の判断能力があるうちにしか契約できないという制約があります。
大切なのは、「今のうちに動く」ことです。
80代の親を持つ40代のあなた。親が元気な今だからこそ、将来のことを家族で話し合い、必要な準備を始めてください。
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【参考記事】
認知症高齢者の財産管理、「家族信託」の活用が急拡大…背景に
https://news.yahoo.co.jp/articles/88334b4e510d1fa61a8c9630f952abd561cff6e3