

はじめに:80代の親を持つ40代の皆さまへ
「親に遺言書を作ってほしいけれど、高齢で外出が難しい…」
「施設に入所しているから、公証役場まで連れて行けない」
「遠方に住んでいるので、何度も通うのが大変」
相続・遺言専門の司法書士として、私はこうしたお悩みを数え切れないほど耳にしてきました。
遺言書の重要性は理解していても、物理的・身体的な制約で作成できない。そんなジレンマを抱えるご家族が非常に多いのです。
しかし、2025年10月から状況が大きく変わりました。公証人法の改正により、「電子公正証書のリモート方式」が導入され、公正証書遺言を自宅や施設からオンラインで作成できるようになったのです。
この記事では、80代の親御さんを持つ40代の方に向けて、この新制度のメリット、手続きの流れ、注意点を、相続の現場で培った知見をもとに詳しく解説します。
1. 公正証書遺言とは?なぜ「最強の遺言書」と言われるのか
公正証書遺言の基本を押さえよう
公正証書遺言とは、法律の専門家である公証人が、遺言者の口述内容をもとに作成する遺言書です。公証役場で正本・謄本として保管されるため、紛失や改ざんのリスクがありません。
遺言書には主に3つの種類があります。
1. 自筆証書遺言:自分で書く遺言書(全文自筆が原則)
2. 公正証書遺言:公証人が作成する遺言書
3. 秘密証書遺言:内容を秘密にしたまま存在を証明する遺言書
この中で、最も確実で安全なのが「公正証書遺言」です。
公正証書遺言が選ばれる5つの理由
①法的に無効になるリスクが極めて低い
公証人という法律の専門家が作成するため、形式不備で無効になる心配がほぼありません。
②家庭裁判所の検認が不要
自筆証書遺言の場合、相続発生後に家庭裁判所で「検認」という手続きが必要ですが、公正証書遺言ならその手間が不要です。
③紛失・改ざんの心配がない
原本は公証役場で保管されるため、万が一自宅の書類を紛失しても再発行が可能です。
④字が書けなくても作成できる
遺言者が口述し、公証人が筆記するため、手が不自由な方でも作成できます。
⑤全国どこからでも検索できる
日本公証人連合会のシステムで、全国の公証役場で作成された遺言書を検索できます。
2. 2025年10月スタート「電子公正証書のリモート方式」とは
これまでの課題:公証役場に行けない高齢者の悩み
従来、公正証書遺言を作成するには、遺言者本人と証人2名が公証役場に直接出向く必要がありました。
しかし、80代の高齢者にとって、これは大きなハードルです。
・足腰が弱く、長時間の外出が困難
・車椅子や介護が必要で移動が大変
・施設や病院に入所・入院していて外出できない
・遠方に住んでいて何度も通えない
・感染症リスクを考えると外出を控えたい
こうした理由で、「遺言書を作りたいけれど作れない」という方が少なくありませんでした。
リモート方式なら自宅からオンラインで作成可能に
2025年10月1日、公証人法の改正により、公正証書の作成手続きがデジタル化されました。
これにより、以下のことが可能になりました。
①オンラインでの嘱託(依頼)が可能
従来は書面や対面での依頼が必要でしたが、インターネット経由で嘱託できるようになりました。
②ウェブ会議での公正証書作成(リモート方式)
自宅や施設にいながら、Zoomなどのウェブ会議システムを使って公正証書遺言を作成できます。
③公正証書は電子データで作成・保管
原本が電子データとして保管されるため、紛失のリスクがさらに低減されます。
④手数料のオンライン決済
クレジットカードや電子マネーでの支払いが可能になります。
3. リモート方式の5つのメリット:80代の親を持つ方必見
メリット① 移動の負担がゼロ
最大のメリットは、やはり「どこでも作れる」ことです。
自宅のリビングで、介護施設の個室で、病院のベッドで。
慣れた環境で落ち着いて手続きを進められるため、高齢者の身体的・精神的負担が大幅に軽減されます。
メリット② 遠方の証人もオンライン参加OK
公正証書遺言の作成には、証人2名の立ち会いが必要です。
従来は証人も公証役場まで同行する必要がありましたが、リモート方式なら遠方に住む家族や専門家も、オンラインで証人として参加できます。
メリット③ 時間とコストの節約
公証役場への往復の交通費や移動時間が不要になります。
特に地方在住の方や、都市部でも交通アクセスが不便な場所にお住まいの方にとって、大きなメリットです。
メリット④ 感染症対策にも有効
新型コロナウイルスの経験から、高齢者の外出リスクが改めて認識されました。
リモート方式なら、感染症が流行している時期でも、安全に遺言書を作成できます。
メリット⑤ 心理的ハードルが下がる
「公証役場に行く」という行為には、どこか重々しいイメージがあります。
しかしオンラインなら、もっと気軽に、前向きに遺言書作成に取り組めるのではないでしょうか。
4. リモート方式で公正証書遺言を作成する流れ
ステップ① 事前相談・内容の確認
まずは公証役場または司法書士などの専門家に相談し、遺言の内容を固めます。
・誰に何を相続させたいか
・遺言執行者は誰にするか
・付言事項(法的効力はないが、家族へのメッセージ)をどうするか
これらを事前に整理しておくとスムーズです。
ステップ② 必要書類の準備
以下の書類を準備します。
・遺言者本人の印鑑登録証明書(3ヶ月以内)
・遺言者と相続人の続柄がわかる戸籍謄本
・財産に関する資料(不動産の登記簿謄本、預金通帳のコピーなど)
・証人2名の住民票または身分証明書
ステップ③ オンライン嘱託(依頼)
公証役場に対して、インターネット経由で公正証書遺言の作成を依頼します。
ステップ④ 日程調整・ウェブ会議の設定
公証人と日程を調整し、ウェブ会議のURLを共有します。
証人2名にも同じURLを伝えます。
ステップ⑤ 当日:ウェブ会議で遺言書作成
指定の日時に、遺言者・公証人・証人2名がオンラインで接続します。
1. 公証人が本人確認を行う
2. 遺言者が遺言の内容を口述する
3. 公証人が筆記した内容を読み上げ、確認する
4. 遺言者と証人が電子署名を行う
5. 公証人が署名・押印し、電子公正証書が完成
ステップ⑥ 電子データの受領・保管
作成された電子公正証書は、公証役場で保管されるとともに、遺言者にもデータが交付されます。
5. リモート方式を利用する際の注意点
注意点① すべてのケースでリモート対応できるわけではない
リモート方式は便利ですが、すべての公証役場で対応しているとは限りません。
事前に最寄りの公証役場に確認しましょう。
注意点② 遺言者本人の意思能力が前提
遺言書を作成するには、遺言者本人に「意思能力」があることが大前提です。
認知症が進行している場合、遺言書は作成できません。
だからこそ、「元気なうちに作る」ことが何より重要なのです。
注意点③ 証人選びは慎重に
証人には誰でもなれるわけではありません。
以下の方は証人になれません。
・未成年者
・推定相続人(相続する予定の人)
・受遺者(遺言で財産をもらう人)
・推定相続人や受遺者の配偶者・直系血族
司法書士や行政書士などの専門家に証人を依頼するのが安心です。
注意点④ 機器の準備とネット環境
オンライン会議に参加するためのパソコンやタブレット、安定したインターネット環境が必要です。
高齢者の場合、家族や専門家のサポートが不可欠です。
6. 遺言書がないとどうなる?相続トラブルの実態
「うちは揉めない」は危険な思い込み
「うちの家族は仲がいいから大丈夫」
そう思っている方ほど、実は危ないのです。
最高裁判所の司法統計によると、遺産分割に関する紛争の約8割は、遺産額5000万円以下の「ごく普通のご家庭」で起きています。
しかも、遺産額1000万円以下でも、約3割が調停や審判に発展しているのです。
なぜ「普通の家庭」ほど揉めるのか
①現金が少なく、不動産が多い
例えば、遺産が「自宅(評価額3000万円)+預金500万円」だった場合、兄弟2人でどう分けますか?
自宅を相続した方が圧倒的に有利になり、不公平感が生まれます。
②相続人それぞれの事情
・「自分は親の介護をしたのに、何もしなかった兄弟と同じ取り分なんて納得できない」
・「長男だから実家を継ぐのは当然だと思っていたのに、妹が権利を主張してきた」
こうした感情のもつれが、相続トラブルの火種になります。
③遺言書がないと「法定相続分」で分ける必要がある
遺言書がない場合、原則として法定相続分(子どもなら均等)で分けることになります。
しかし現実には、介護の負担や生前贈与の有無など、様々な事情があるため、「平等」が必ずしも「公平」とは限りません。
遺言書があれば防げるトラブル
遺言書があれば、被相続人(亡くなった方)の意思が明確になり、相続人同士の争いを未然に防ぐことができます。
特に、以下のようなケースでは遺言書が不可欠です。
・子どもがいない夫婦(配偶者と兄弟姉妹が相続人になる)
・前妻の子どもがいる
・特定の子どもに多く相続させたい
・事業を継ぐ子どもに事業用資産を集中させたい
・相続人以外の人(孫、内縁の妻など)に財産を残したい
7. 80代の親を持つ40代の方へ:今すぐできる3つのアクション
アクション① 家族で「相続」について話し合う
まずは家族で相続について話し合う機会を作りましょう。
「縁起でもない」と思われるかもしれませんが、元気なうちに話し合うことこそが、円満な相続への第一歩です。
アクション② 親の財産状況を把握する
・不動産(自宅、土地など)
・預貯金
・株式・投資信託
・生命保険
・負債(住宅ローンなど)
これらを整理し、「相続財産リスト」を作成しましょう。
アクション③ 専門家に相談する
相続・遺言は専門的な知識が必要な分野です。
司法書士、弁護士、税理士などの専門家に早めに相談することで、最適な対策が見えてきます。
まとめ:「まだ大丈夫」が一番危ない
2025年10月にスタートした「電子公正証書のリモート方式」は、これまで遺言書を作りたくても作れなかった高齢者にとって、大きなチャンスです。
自宅や施設にいながら、オンラインで公正証書遺言を作成できる。
この制度を活用すれば、移動の負担なく、確実で安全な遺言書を残すことができます。
しかし、どんなに便利な制度ができても、「まだ大丈夫」「そのうち」と先延ばしにしていては意味がありません。
認知症や病気で判断能力が低下してからでは、遺言書は作れません。
そして遺言書がないために、残されたご家族が相続で揉めてしまう。
そんな悲しい「争族」を防ぐために、今こそ行動を起こしましょう。
親が元気なうちに、家族が笑顔で過ごせる相続の準備を。
その第一歩として、リモート方式の公正証書遺言をぜひご検討ください。
ご不明な点があれば、お気軽に専門家にご相談ください。
あなたとご家族の未来を守るために、私たち専門家が全力でサポートいたします。
参考記事
遺言書を作りたいが、公証役場まで出向けない…「電子公正証書のリモート方式」なら自宅で作成できる⁉
https://news.yahoo.co.jp/articles/cf8361cdae7e603fd19ad0dcbc0292ba3bfaccda
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