

はじめに:あなたも直面する「二つの老い」という現実
「実家、どうするつもりですか?」
この質問に、明確に答えられる40代の方は、どれくらいいるでしょうか。
Yahoo!ニュースで取り上げられた「中高年が直面する『二つの老い』親は80代、実家は築数十年」という記事が、多くの反響を呼んでいます。
親の高齢化と、実家の老朽化――。この「二つの老い」に、多くの40代が今、静かに直面しています。
私は相続遺言専門の司法書士として、日々、相続に関する相談を受けています。その中で痛感するのは、「もっと早く相談してくれていれば…」というケースが本当に多いということです。
本記事では、80代の親を持つ40代の皆さんに向けて、「実家問題」にどう向き合い、どう備えるべきかを、実例を交えながら詳しく解説します。
かつての「財産」が今や「負動産」に――実家相続の実態
実家が「負動産」になる理由
かつて、実家は家族にとって大切な「財産」でした。しかし今、その実家が相続人同士で「押し付け合う負動産」になるケースが急増しています。
なぜ実家が負動産になるのか?
老朽化による維持費の負担増
築30年、40年と経過した実家は、水回りや屋根の修繕が必要になります。リフォーム費用は数百万円規模になることも珍しくありません。さらに、放置すればするほど劣化は進み、いざ売却しようとしても資産価値が大きく下がってしまいます。
立地・需要の問題で売却が困難
駅から遠い、バス便のみ、人口減少地域…。こうした立地条件では、買い手がなかなかつきません。特に地方の実家は、需要が少なく、売りたくても売れないという状況に陥りがちです。
固定資産税・管理費の継続的な負担
誰も住まない実家でも、固定資産税は毎年かかります。草刈りや清掃などの管理も必要で、遠方に住んでいる場合は管理会社に依頼することになり、その費用も年間数十万円に及ぶこともあります。
特定空き家に指定されるリスク
放置すれば、自治体から「特定空き家」に指定され、固定資産税が最大6倍になる可能性があります。さらに、倒壊の危険があると判断されれば、強制的に解体され、その費用を請求されることもあります。
相続後に起こる「押し付け合い」の実態
私が相談を受けた事例の中には、こんなケースがありました。
事例:兄弟3人で7年間揉めた実家相続
長男:「俺は東京に家があるから、実家はいらない」
次男:「僕も地元を離れて20年。管理できない」
長女:「私も遠方に嫁いでいるし…」
結果、誰も実家を相続せず、7年間も遺産分割協議がまとまらないまま。その間も固定資産税は発生し続け、実家はどんどん老朽化していきました。最終的には、安値で不動産業者に買い取ってもらうことになりましたが、その頃には屋根が雨漏りし、庭は荒れ放題という状態でした。
このように、「誰も住まない実家」は、相続人全員にとって重荷になるのです。
「うちは仲がいいから大丈夫」が一番危険な理由
相続トラブルは「普通の家族」に起こる
「うちは兄弟仲がいいから、相続でもめることなんてない」
そう思っている方にこそ、お伝えしたいことがあります。実は、相続トラブルの約8割は、遺産総額5000万円以下の「普通の家族」で起こっているのです。
なぜ仲の良い家族がもめるのか?
配偶者の口出し
兄弟同士は納得していても、それぞれの配偶者が「うちももらう権利がある」と主張し始めるケースがあります。特に、義理の兄弟姉妹が口を出すことで、関係がこじれることが多いのです。
介護負担の不公平感
「私が親の介護を全部やったのに、相続は平等なんて納得できない」という感情的な対立が生まれます。実際、介護をした相続人が「寄与分」を主張し、他の相続人と対立するケースは非常に多いです。
不動産の分割が難しい
預貯金は分けられても、実家という不動産は物理的に分割できません。誰が相続するか、どう代償金を払うかで揉めます。代償金を支払う資力がない場合、実家を売却せざるを得なくなり、「親の家を売るなんて…」と感情的な対立が深まることもあります。
親が80代なら「いつか」ではなく「今」が準備のタイミング
相続対策は「元気なうちに」が鉄則
親御さんが80代ということは、相続はもう「いつか」ではなく「近い将来」の話です。
なぜ今、動くべきなのか?
判断能力があるうちに対策を打てる
遺言書の作成、家族信託の契約、不動産の売却…。これらはすべて、本人に判断能力がある間にしかできません。法律では、判断能力がない状態で行った法律行為は無効とされるため、認知症になってからでは手遅れなのです。
認知症になると、選択肢が激減する
認知症と診断されると、法律行為ができなくなります。成年後見制度を利用するしかなく、柔軟な対策が取れなくなります。成年後見人は家庭裁判所の監督下にあり、不動産の売却など重要な行為には裁判所の許可が必要になるため、時間もコストもかかります。
家族で冷静に話し合える時間がある
相続発生後は、悲しみと手続きに追われ、冷静な判断ができません。葬儀、役所への届出、相続税の申告…。やるべきことが山積みの中で、実家をどうするかを冷静に話し合うのは困難です。今なら、じっくり時間をかけて話し合えます。
実家問題で後悔しないために「今」やるべき5つのこと
1. 家族会議を開き、実家の未来を話し合う
まずは、親と兄弟で「実家をどうするか」を話し合いましょう。
話し合うべきポイント
親は実家をどうしたいと思っているか
親自身が「この家を守ってほしい」と思っているのか、それとも「売却してお金で分けてほしい」と思っているのか。親の本音を聞くことが第一歩です。
誰が実家を相続するのか、または売却するのか
兄弟の中で誰が実家を相続するのか、誰も住まないなら生前に売却するのか。具体的な方針を決めておくことで、相続後のトラブルを避けられます。
介護が必要になったとき、誰がどう関わるか
介護の分担についても、事前に話し合っておくことが重要です。介護をした人が相続で優遇される「寄与分」の制度もありますが、事前に家族で合意しておく方がスムーズです。
親の財産の全体像を把握する
預貯金、不動産、負債…。親の財産がどれくらいあるのかを把握しておくことで、相続税の概算や分割方法を事前に検討できます。
2. 遺言書を作成し、相続の方針を明確にする
遺言書があれば、遺産分割協議の手間が省け、トラブルも防げます。
おすすめは「公正証書遺言」
公証人が作成するため、形式的なミスがありません。自筆証書遺言は、法律で定められた形式を満たしていないと無効になるリスクがありますが、公正証書遺言ならその心配がありません。
また、原本が公証役場に保管されるため、紛失や改ざんの心配がなく、家庭裁判所の検認手続きも不要です。相続手続きがスムーズに進みます。
自筆証書遺言の法務局保管制度も活用できる
自筆証書遺言を法務局に預ける制度もあります。費用が安く、検認も不要なので、公正証書遺言よりも手軽に利用できます。ただし、内容のチェックはされないため、形式不備には注意が必要です。
3. 生前に実家を売却・整理する選択肢も検討
相続後に売るより、生前に売却する方がメリットが大きい場合もあります。
生前売却のメリット
親自身が売却代金を老後資金として活用できる
実家を売却したお金で、親が老人ホームに入居したり、介護費用に充てたりすることができます。親自身が自分の資産を活用できるのは、大きなメリットです。
相続税の節税対策になる
現金は相続税の課税対象ですが、生前に使ってしまえば相続財産が減り、相続税も減ります。また、生前贈与を活用すれば、さらに節税効果が高まります。
相続人間のトラブルを未然に防げる
実家という「分けられない財産」がなくなることで、相続人間の対立を避けられます。現金なら平等に分けやすく、感情的な対立も起こりにくいのです。
4. 家族信託を活用し、柔軟な財産管理を実現
家族信託とは、親が元気なうちに、信頼できる家族(子など)に財産の管理を託す制度です。
家族信託のメリット
認知症になっても、財産管理が継続できる
親が認知症になっても、受託者(子)が財産を管理できるため、不動産の売却や賃貸契約など、柔軟な対応が可能です。
遺言書では実現できない柔軟な承継設計が可能
「長男に相続させ、長男が亡くなったら孫に」といった二次相続以降の指定ができます。遺言書ではこのような指定はできません。
成年後見制度より自由度が高い
成年後見制度は家庭裁判所の監督下にあり、柔軟な財産管理が難しいですが、家族信託なら家族の判断で自由に管理できます。
5. 相続の専門家に相談し、現実的なプランを立てる
「何から始めればいいか分からない」という方は、まず専門家に相談してください。
相談すべき専門家
司法書士
相続登記、遺言書作成、家族信託の設計などを専門としています。法律面でのアドバイスが受けられます。
税理士
相続税の試算、節税対策、生前贈与の活用方法などを提案してくれます。相続財産が多い場合は、早めに相談することが重要です。
不動産業者
実家の査定、売却・活用の提案をしてくれます。「売れない」と思っていた実家でも、専門業者なら買い取ってくれることもあります。
実家相続で「やってはいけない」3つのNG行動
NG1. 相続が発生するまで何もしない
「親が元気だから、まだ大丈夫」と先延ばしにするのは危険です。認知症になってからでは、できることが限られます。相続対策は、親が元気なうちに始めるのが鉄則です。
NG2. 兄弟間で事前に話し合わない
「相続が起きてから考えればいい」と思っていると、感情的な対立が起こりやすくなります。事前に話し合っておけば、相続後のトラブルを避けられます。
NG3. 遺言書を貸金庫に保管する
遺言書を貸金庫に入れるのは絶対NGです。貸金庫は、相続人全員の同意がないと開けられないため、遺言書が取り出せなくなります。
遺言書の保管場所
法務局の遺言書保管制度を利用する(自筆証書遺言)
公証役場に原本を保管する(公正証書遺言)
信頼できる家族や専門家に預ける
これらの方法なら、相続発生後もスムーズに遺言書を確認できます。
まとめ:「今」動くことが、家族の未来を守る
80代の親を持つ40代の皆さん。「実家問題」は、もう他人事ではありません。
本記事のポイントまとめ
実家は「財産」から「負動産」へと変わりつつある
相続トラブルは「普通の家族」に起こる
親が80代なら、相続対策は「今」始めるべき
家族会議、遺言書、家族信託など、できることは多い
専門家に相談し、現実的なプランを立てることが重要
大切なのは、親が元気で判断能力があるうちに、家族で話し合い、備えることです。
「縁起でもない」と思わず、むしろ「親を想うからこそ」、今、向き合ってみてください。
一歩踏み出すだけで、未来が変わります。もし不安や疑問があれば、ぜひお近くの相続専門家にご相談ください。
参考記事
「中高年が直面する『二つの老い』親は80代、実家は築数十年」
https://news.yahoo.co.jp/articles/8fde271f014f7209d7ebf0c4432d7cc708e1cd05