

はじめに
80代のご両親をお持ちの40代の皆さん、こんにちは。
相続遺言専門の司法書士として、日々多くのご相談をお受けしている中で、最近特に増えているのが「介護と相続」に関するトラブルです。
「私が何年も介護したのに、何もしなかった兄弟と相続が同じなんて納得できない」
「遠方に住んでいるからといって、全く手伝わなかった弟が半分も相続するなんておかしい」
こうした声は、決して珍しいものではありません。
実際、最近のYahoo!ニュースでも、介護離職した56歳女性が相続で揉めたケース、長年母親の介護をしてきた方が遠方の兄との相続で悩むケースが報じられています。
今回は、こうした「介護と相続」の問題について、法律的な視点と実務的な対策の両面から、わかりやすく解説していきます。
なぜ介護と相続で揉めるのか
相続トラブル、いわゆる「争族」は年々増加しています。
司法統計によると、遺産分割事件数は2011年の10,793件から、2023年には13,872件と大幅に増加しています。
その背景には、高齢化社会の進展、介護期間の長期化、核家族化による家族関係の希薄化など、さまざまな要因があります。
特に「介護」が絡む相続では、感情的な対立が深刻化しやすい傾向があります。
介護をした側の心理としては
「毎日大変な思いをして介護したのは私なのに」
「仕事を辞めてまで尽くしたのに」
「兄弟は何もしなかったのに、同じ相続分なんておかしい」
一方、介護に関わらなかった側の心理としては
「法律で決まっているんだから、半分ずつが当然」
「遠方に住んでいたから物理的に無理だった」
「自分も経済的に支援はしていた」
こうした認識のズレが、家族の絆を壊してしまうのです。
介護しても相続分が自動的に増えるわけではない
多くの方が誤解されているのが、「親を介護したら、相続で多くもらえる」という点です。
実は、法律上、親の介護は「子の扶養義務」の範囲内とされるため、介護をしたからといって自動的に相続分が増えるわけではありません。
民法では、配偶者や子どもなどの相続人には「法定相続分」が定められており、例えば子ども2人の場合、それぞれ2分の1ずつが原則です。
では、介護した人は泣き寝入りするしかないのでしょうか?
いいえ、そうではありません。
寄与分という制度がある
介護など、被相続人(亡くなった方)の財産の維持や増加に特別な貢献をした相続人には、「寄与分」という制度が認められています。
寄与分とは、通常の扶養義務を超える特別な貢献をした相続人が、法定相続分以上の取り分を請求できる制度です。
ただし、ここで重要なのは「特別な貢献」であることです。
例えば
週末に様子を見に行く程度では寄与分は認められません
介護サービスを利用せず、長期間無償で介護を担った
それによって施設費用や介護サービス費用が発生せず、親の財産が減らなかった
仕事を辞めるなど、自分の生活に大きな犠牲を払った
こうした事実があって初めて、寄与分が認められる可能性があります。
寄与分を認めてもらうために必要なこと
寄与分を主張するには、客観的な証拠が必要です。
「私は頑張りました」という主観的な主張だけでは、なかなか認められません。
具体的には、以下のような記録を残しておくことが重要です。
介護日誌
いつ、どのような介護をしたのか、日々の記録を残しましょう。
食事の介助、入浴の介助、通院の付き添い、夜間の見守りなど、具体的に記録します。
かかった費用の記録
介護用品の購入費、通院の交通費、介護のための引っ越し費用など、自分が負担した費用の領収書を保管しておきましょう。
介護に費やした時間の記録
仕事をセーブした記録、休職や退職の証明、介護のために使った時間の記録などを残しておきます。
要介護認定の記録
親御さんの要介護度がどれくらいだったか、認定調査の結果や介護保険の書類も重要な証拠になります。
もし介護サービスを使わなかった場合の費用の試算
「もし施設に入っていたら月額○○万円かかったはず」「訪問介護を週3回利用していたら年間○○万円かかったはず」といった試算をしておくと、寄与分の金額を算定する際の根拠になります。
こうした記録があれば、相続人同士の話し合いでも、あるいは家庭裁判所の調停や審判でも、寄与分を認めてもらいやすくなります。
事前の対策が最も重要 遺言書の作成
ただし、正直に申し上げますと、相続が発生してから寄与分を主張するのは、非常にエネルギーを使います。
相続人同士で話し合いがまとまらなければ、家庭裁判所の調停や審判に進むことになり、時間も費用もかかります。
ですから、最も効果的な対策は「親が元気なうちに遺言書を作成してもらうこと」です。
遺言書に「長年介護をしてくれた長女に、財産の3分の2を相続させる」と書いてあれば、原則としてその通りに相続が行われます。
もちろん、他の相続人には「遺留分」という最低限の取り分を請求する権利がありますが、それでも遺言書があるのとないのとでは、大きな違いがあります。
また、遺言書には「付言事項」として、なぜそのような分け方にしたのか、親の想いを書き添えることもできます。
「長女は仕事を辞めてまで私の介護をしてくれた。その献身に報いたい」
こうした親の言葉があれば、他の相続人も納得しやすくなります。
認知症になる前に対策を
ここで重要なのは、遺言書は「判断能力があるうち」にしか作成できないという点です。
認知症が進行してしまうと、法律上、有効な遺言書を作成することができなくなります。
「まだ元気だから、もう少し先でいいか」
そう思っているうちに、認知症は突然進行してしまうことがあります。
実際、私が相談を受けるケースでも、「もっと早く対策しておけばよかった」という後悔の声を多く聞きます。
認知症になる前にできる対策は、遺言書の作成だけではありません。
「家族信託」という制度を使えば、認知症になった後も、信頼できる家族が財産を管理できるようにすることができます。
また、任意後見契約を結んでおけば、自分が選んだ人に財産管理をお願いすることができます。
こうした対策は、親御さんが80代であれば、まさに「今」始めるべきタイミングです。
家族で話し合うことの大切さ
相続や介護の話は、なかなか切り出しにくいものです。
「縁起でもない」「まだ早い」と言われてしまうこともあるでしょう。
でも、だからこそ、早めに、そして穏やかに話し合うことが大切なのです。
例えば、こんな切り出し方はいかがでしょうか。
「最近、相続のトラブルが増えているらしいよ。うちは大丈夫だと思うけど、念のため専門家に相談してみない?」
「お父さん、お母さんが元気なうちに、家族みんなで将来のことを話し合っておきたいんだ」
「もし介護が必要になったとき、誰がどんなふうにサポートするか、考えておきたい」
大切なのは、「お金の話」ではなく、「家族の将来の話」として切り出すことです。
そして、できれば私たち専門家を交えて話し合うことをお勧めします。
第三者が入ることで、冷静に、そして法律的に正しい形で、話を進めることができます。
まとめ 今すぐできること
介護と相続の問題は、決して他人事ではありません。
80代の親を持つ40代の皆さんは、まさに今、この問題に直面する可能性が高い世代です。
今すぐできることは
1 親御さんと将来のことを話し合う
2 介護が必要になったとき、誰がどうサポートするか家族で共有する
3 遺言書の作成を検討する
4 もし介護をすることになったら、記録を残す
5 早めに専門家(司法書士、弁護士、税理士など)に相談する
「まだ早い」と思っているうちに、状況は変わってしまいます。
認知症は突然進行します。
そして、いったん相続が発生してしまってからでは、できることが限られてしまいます。
ご家族の絆を守るために、そして介護をする方もされる方も幸せになるために、今できることから始めてみませんか。
もしこの記事を読んで、少しでも不安や疑問を感じられた方がいらっしゃいましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
一人で悩まず、まずは話を聞かせていただくことから始めましょう。
あなたのご家族が、笑顔で未来を迎えられますように。
https://news.yahoo.co.jp/articles/fa70c0221b1b169469bc016d02f9545e8289a584
https://news.yahoo.co.jp/articles/ee9b062550d3bbeed71ea2531f900a3cc532e282