

はじめに
「親の介護を何年も1人で担ってきたのに、相続では兄弟と同じ扱いなんですか?」
相続遺言専門の司法書士として、このようなご相談を受けることが非常に多くなっています。特に、80代の親御さんをお持ちの40代の方々からのご相談が増えています。
親が元気なうちは「いつか考えよう」と思っていても、いざ介護が始まると、時間的にも精神的にも余裕がなくなり、相続の話し合いどころではなくなってしまうのが現実です。
そして、親が亡くなった後に「こんなはずじゃなかった」とトラブルになるケースが後を絶ちません。
今回は、Yahoo!ニュースで取り上げられた2つのケースをもとに、介護と相続の関係について、法律の観点から分かりやすく解説します。
介護をしても相続分は自動的には増えない?その理由とは
まず知っておいていただきたいのは、「親の介護を担った=相続分が増える」という自動的な仕組みは、法律上存在しないという事実です。
民法第877条では、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と定められています。つまり、親の生活を支える行為や介護は、法律上「扶養義務」の一環として位置づけられているのです。
そのため、家族が親の介護を行うことは「家族として当然の役割」と見なされ、ただちに「特別の貢献」とは評価されにくいのが実務上の傾向です。
例えば、兄弟の中で1人だけが「近くに住んでいるから」という理由で長期間介護を担っていたとしても、それが扶養義務の範囲内と評価される限り、遺産分割で他の相続人より相続分が多くなることは通常ありません。
これは多くの方にとって「納得できない」と感じられる現実かもしれません。しかし、法律はこのように定められているのです。
例外の「寄与分」制度:特別な貢献が認められるケースとは
ただし、例外があります。それが「寄与分」という制度です。
民法第904条の2では、相続人の中に被相続人の財産の維持や増加に「特別の貢献」をした者がいる場合、その貢献を相続分に反映させることができると定めています。
介護の場合、具体的には以下のようなケースで寄与分が認められる可能性があります。
・専門職員(ヘルパーや看護師)を雇えば相当の費用がかかったであろう程度の負担を、長期間にわたって担っていた
・他の兄弟姉妹に代わって主体的に介護を実施していた
・介護によって、本来なら必要だった介護費用の支出を防ぎ、親の財産を維持した
ただし、寄与分の認定は決して容易ではありません。介護の内容や期間、経済的効果などを客観的に示す資料が重要になります。
具体的には、以下のような記録を残しておくことが大切です。
・介護日誌(いつ、何をしたか)
・医療費や介護用品の領収書
・通院の付き添い記録
・介護サービス事業者との連絡記録
・仕事を休んだ記録や収入減の証明
これらの資料があることで、「通常の扶養義務を超えた特別な貢献」を客観的に証明しやすくなります。
遺言で不公平な相続がされても「遺留分」がある
次に、もう1つのケースを見てみましょう。
「次男の私が父の介護費を月7万円出していたけど、父は遺言で家を長男に相続させると書いていた」
このような場合、次男は家を相続できないのでしょうか?
遺産をどのように相続させるかは、原則として故人が自由に決めることができます。そのため、遺言書があれば、基本的にはその内容に従うことになります。
しかし、ここで重要なのが「遺留分」という制度です。
遺留分とは、相続人に認められた最低限の取り分のことで、兄弟が相続人である場合、相続財産全体の2分の1が遺留分として保護されます。そしてその2分の1を兄弟で均等に分けますので、1人あたりは4分の1となります。
例えば、極端なケースですが、財産が2000万円の家のみで、それが遺言によって長男の相続となった場合を考えてみましょう。
この場合、次男は遺留分として500万円(2000万円×1/2×1/2)を長男に対して金銭で請求することができるのです。
これを「遺留分侵害額請求」といいます。
つまり、たとえ遺言で不公平な内容が書かれていても、最低限の権利は法律で守られているということです。
実務上のポイント:トラブルを防ぐために今できること
では、このような相続トラブルを防ぐために、今からできることは何でしょうか。
1. 親が元気なうちに家族で話し合う
「縁起でもない」と思われるかもしれませんが、親が元気なうちに「介護をどう分担するか」「将来の相続をどう考えるか」を家族で話し合っておくことが最も重要です。
2. 介護の記録を残す
前述の通り、介護日誌や領収書などの客観的な記録を残しておくことが、将来的に寄与分を主張する際の証拠になります。
3. 遺言書を作成してもらう
親御さんに、公正証書遺言を作成してもらうことをお勧めします。自筆証書遺言よりも、公正証書遺言の方が法的に確実で、後々のトラブルを防ぎやすくなります。
4. 家族信託や任意後見の検討
認知症になってからでは、有効な遺言書を作成することができなくなります。元気なうちに、家族信託や任意後見契約を検討することも選択肢の1つです。
5. 専門家への相談
相続や介護の問題は、法律だけでなく、税金や不動産、家族関係など複雑な要素が絡み合います。早めに専門家(司法書士、弁護士、税理士など)に相談することで、あなたの状況に合った最善の解決策が見つかります。
まとめ
親の介護を1人で担うことは、心身ともに大きな負担です。そして、その努力が相続に反映されないというのは、感情的には納得しがたいかもしれません。
しかし、法律を正しく理解し、適切な準備をしておくことで、トラブルを未然に防ぐことができます。
「寄与分」や「遺留分」といった制度を知っておくこと、そして何よりも家族間での事前のコミュニケーションが、円満な相続への第一歩です。
もし今、同じようなお悩みを抱えておられるなら、1人で抱え込まず、専門家に相談してみてください。あなたとご家族にとって最善の道を、一緒に探していきましょう。
参考記事:
https://news.yahoo.co.jp/articles/720c078724532cfb726f0299851d47f26c9a8c89
https://news.yahoo.co.jp/articles/6895c9c6be249b95ff3a3a79ac7c53d03fee926e