

はじめに
相続・遺言を専門とする司法書士として、日々多くのご家族の相続手続きをサポートしています。最近、アメリカの相続制度に関する画期的なニュースがありました。それは、ニューヨーク州で2025年12月に成立した「電子遺言法(New York Electronic Wills Act)」です。
これにより、ニューヨーク州では、電子署名による遺言書の作成、オンライン保管、電子的な執行が可能になりました。つまり、スマホやパソコンで遺言書を作成し、クラウド上に保管できる時代が到来したのです。
一見、日本とは関係のない話に思えるかもしれませんが、実はこれからの日本の相続にも大きな影響を与える可能性があります。特に、80代の親御さんをお持ちの40代の方々にとって、この情報は決して他人事ではありません。
今回は、ニューヨーク州の電子遺言合法化の背景と、それが日本の相続準備にどう関わってくるのかを、専門家の視点から詳しく解説します。
ニューヨーク州の電子遺言法とは?
2025年12月、ニューヨーク州のキャシー・ホークル知事が署名し、「電子遺言法(New York Electronic Wills Act)」が成立しました。
この法律により、以下のことが可能になりました。
・電子署名による遺言書の作成
・オンラインでの遺言書保管
・電子的な遺言執行
具体的には、遺言者がスマホやパソコンで遺言書を作成し、電子署名を行い、クラウド上に保管することができます。証人もオンラインで立ち会うことが可能で、遠方に住んでいる家族でも手続きに参加できます。
なぜ電子遺言が認められたのか?
ニューヨーク州が電子遺言を合法化した背景には、以下のような理由があります。
1. デジタル化の進展
社会全体のデジタル化が進む中、遺言書だけが「紙」に限定されている状況は時代にそぐわない。
2. 高齢者の利便性向上
高齢で字を書くのが困難な方や、遠方に住んでいて公証役場に行けない方にとって、電子遺言は大きな助けになる。
3. コロナ禍の影響
パンデミックにより、対面での手続きが困難になったことが、電子遺言の必要性を加速させた。
4. 法的安全性の確保
電子署名技術やブロックチェーン技術の進化により、電子データの改ざん防止や本人確認が可能になった。
これらの理由は、実は日本でも同じように当てはまります。
日本の遺言書制度の現状
では、日本ではどうでしょうか?
現在、日本で認められている遺言書の種類は、主に以下の3つです。
1. 自筆証書遺言
遺言者が自分で全文を手書きし、日付と氏名を記入して押印する方法。最も手軽ですが、形式不備のリスクがあり、相続発生後に家庭裁判所での検認手続きが必要です。
2. 公正証書遺言
公証人の前で遺言内容を口述し、公証人が作成する方法。確実性が高く、検認手続きも不要ですが、費用がかかります。
3. 秘密証書遺言
遺言内容を秘密にしたまま、遺言書の存在だけを公証人に証明してもらう方法。あまり利用されていません。
現時点では、日本では電子署名による遺言書は認められていません。遺言書は「自筆」で書くことが法律で定められており、パソコンやスマホで作成した遺言書は無効となります。
ただし、2020年7月からは、自筆証書遺言を法務局で保管できる制度が始まり、検認手続きが不要になるなど、一部デジタル化が進んでいます。
日本でも電子遺言が認められる可能性
日本政府は「デジタル化の推進」を掲げており、相続手続きのオンライン化も進んでいます。
例えば、以下のような取り組みが進んでいます。
・相続登記のオンライン申請
・マイナンバーカードを活用した手続き簡素化
・電子証明書の活用
・自筆証書遺言の法務局保管制度
これらの流れを考えると、日本でも将来的に電子署名による遺言書が認められる可能性は十分にあります。
特に、以下のようなニーズが高まっています。
・高齢で字を書くのが困難な方
・遠方に住んでいて公証役場に行けない方
・コロナ禍で対面手続きが難しい方
・デジタルネイティブ世代の若い世代
電子遺言のメリット
電子遺言が認められると、以下のようなメリットがあります。
1. 手軽に作成できる
スマホやパソコンで簡単に作成できるため、遺言書作成のハードルが下がります。
2. 修正が簡単
紙の遺言書の場合、修正するには全文を書き直す必要がありますが、電子遺言なら簡単に修正できます。
3. 保管が安全
クラウド上に保管することで、紛失や改ざんのリスクが減ります。
4. 遠方からでも手続き可能
証人もオンラインで立ち会えるため、遠方に住んでいる家族でも手続きに参加できます。
5. 検索・管理が簡単
電子データなので、検索や管理が容易です。
電子遺言の課題
一方で、電子遺言には以下のような課題もあります。
1. 本人確認の厳格化
なりすましや不正を防ぐため、厳格な本人確認が必要です。
2. 電子データの改ざん防止
ブロックチェーン技術などを活用し、改ざんを防ぐ仕組みが必要です。
3. セキュリティの確保
サイバー攻撃やデータ漏洩のリスクに対する対策が必要です。
4. システム障害時の対応
システムがダウンした場合の対応策を用意しておく必要があります。
5. デジタルデバイドへの配慮
高齢者や、デジタル機器に不慣れな方への配慮が必要です。
これらの課題をクリアしながら、日本でも電子遺言が普及する日が来るかもしれません。
80代の親を持つ40代の方へ―今からできる遺言書準備
電子遺言が日本で認められるのはまだ先の話ですが、だからといって遺言書の準備を先延ばしにするわけにはいきません。
特に、80代の親御さんをお持ちの40代の方々にとって、遺言書の準備は「今すぐ」取り組むべき課題です。
以下に、今からできる具体的な遺言書準備をご紹介します。
1. 遺言書の必要性を親に理解してもらう
「遺言書を書く」というと、「縁起でもない」「まだ早い」と抵抗感を持つ方も多いです。
しかし、遺言書は「家族への最後のメッセージ」であり、「家族が争わないための配慮」でもあります。
親御さんに遺言書の必要性を理解してもらうために、以下のような話し方をしてみてください。
「もし遺言書がないと、相続人全員で遺産分割協議をしなければならず、手続きが大変になるんだよ」
「遺言書があれば、お父さん(お母さん)の想いを形にできるよ」
「遺言書は何度でも書き直せるから、とりあえず一度書いてみない?」
2. 自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらを選ぶか
遺言書には、自筆証書遺言と公正証書遺言の2種類があります。
自筆証書遺言は手軽に作成できますが、形式不備のリスクがあります。一方、公正証書遺言は確実性が高いですが、費用がかかります。
親御さんの状況に応じて、どちらが適しているかを検討しましょう。
3. 遺言書に書くべき内容
遺言書には、以下のような内容を書きます。
・誰に、どの財産を相続させるか
・遺言執行者の指定
・その他の希望(葬儀の方法、ペットの世話など)
財産の内容を具体的に書くことで、相続人同士のトラブルを防げます。
4. 自筆証書遺言の法務局保管制度を活用する
2020年7月から、自筆証書遺言を法務局で保管できる制度が始まりました。
この制度を利用することで、以下のメリットがあります。
・紛失や改ざんのリスクがなくなる
・家庭裁判所での検認手続きが不要になる
・相続人が法務局で遺言書の有無を確認できる
費用も3,900円と手頃なので、ぜひ活用してください。
5. 定期的に見直す
遺言書は一度作成したら終わりではありません。
家族の状況や財産の内容が変わったら、定期的に見直すことが大切です。
電子遺言の時代に備えて
電子遺言が日本で認められる日はまだ先かもしれませんが、その日が来たときにスムーズに対応できるよう、今から準備を進めておくことが大切です。
例えば、以下のような準備をしておくとよいでしょう。
・デジタル機器の使い方に慣れておく
・電子署名の仕組みを理解しておく
・クラウドサービスの利用に慣れておく
・デジタル遺産(SNSアカウント、暗号資産など)の管理方法を考えておく
特に、デジタル遺産の管理は、今後ますます重要になってきます。
親御さんがどのようなデジタル資産を持っているのか、アカウント情報やパスワードはどこに保管しているのか、事前に確認しておくことが大切です。
まとめ
ニューヨーク州で起きた電子遺言の合法化は、決して遠い国の出来事ではありません。日本でも今後、同様の動きが起こる可能性は十分にあります。
80代の親御さんをお持ちの40代の方々にとって、遺言書の準備は目の前の課題です。電子遺言が認められるのを待つのではなく、今できる方法で遺言書を作成しておくことが大切です。
もし「何から始めたらいいかわからない」「親にどう話せばいいかわからない」という方がいらっしゃいましたら、ぜひ専門家にご相談ください。一緒に、安心できる相続の準備を進めていきましょう。
【参考記事(英語)】
https://trustandwill.com/learn/new-york-electronic-wills-act